ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 28









「では、私はここから別行動するね。パッセージリングとやらに私は用事ないから。薬草を採ってくる」

シュレーの丘。
薬草がたくさん群生することでも個人的に有名な場所。
パッセージリング、とやらへ続く道を開けたイオン。
顔色の悪い彼に薬を処方しながら彼らに告げた。
頷くルークを確かめて、踵を返して歩き出す。
が、

「お待ちになって、

呼び止めたのは金色のお姫様。
何事かと振り返れば、彼女は私を見てはいなくて。

「クレイ。をお願いしますわ」

彼女の視線は、彼女を守る存在へ。

「へ?」

お姫様の言葉に思わずすっとんきょうな声を上げる。
それに対して姫様はふわりと笑った。

「しかし姫様・・・」

言葉を投げられたクレイが困ったようにいいよどむが、いっさいがっさいばっさりときられる言葉。

「あら、わたくしの強さはよく知っているはずです。それに、ルークたちもいますもの」

そうでしょう?
そう言うように、彼女はルークたちを見やる。
答えるように彼らは頷く。
それに対して小さくため息をもらしながらも、クレイはしっかりと頷いた。

「・・・わかりました、ガイ、姫様を頼む」

「任せておけ。を頼んだぞ」

「ああ」

ガイへ、クレイが言葉を投げれば、当たり前とばかりに返事が返されて。

「一人でも大丈夫です!」

私そっちのけで進んでいく話にあわてて言葉を挟む。
しかしながら私の言葉はあってないようなものらしく。

「ま、クレイがついているならば無理もしないでしょう」

ジェイドが、

をお願いな、クレイ」

ルークが

「危ないことしないでね、

ティアが

「気をつけてくださいね」

イオンが

「いってらっしゃい!」

アニスが

「こっちはまかせろ」

ガイが、
言葉を紡ぐ。

「でも、クレイは__」

クレイは、あなたを守る存在でしょう?
そう口にしようとした言葉は、やっぱりお姫様に遮られて。

「何を行っているんです、。もうあなたはあなた一人の体ではありませんわ」

・・・ちょっとまって、その言い方は些か誤解を生む!!

「え、・・・?」

アニスがそっと私から距離をとった。

「ちょ、その言い方はやめてください!なんかおかしいでしょう?!」

あわててアニスの肩を捕まえて、お姫様に叫ぶ。

「冗談はさておき、確かに、。あなたは確かに、あなただけのものではなくなりました」

ジェイドが、私をまっすぐに見つめて告げる。

「あなたはマルクト国王のそして、キムラスカの姫君の名前を持っているでしょう?あなたの作る薬は、もうあなただけの物ではありませんからね」

「あなたを守るであろうその名前は、あなたの足かせにもなるんですよ」

せっかく手に入れた武器はずしりと重さを増した。



「その名前を、武器にするか、足枷にするか、それは次第だから」

みんなを見送って、記憶する薬草の群衆地帯へと向かう。
じわりじわりと思うのは先ほどのことで。
会話もなく歩く中、ぽつり、ぽつりとクレイの声が落とされる。

「それでも、俺たちからすると足枷になってしまったことが、うれしい。おまえが勝手に一人で動けなくなることに、安心するんだ」

安心する、その言葉はどう理解したらいい?

「なあ、

ゆるり、と視線をあげる。
まっすぐにこちらを見るクレイの瞳とかちあう。

「頼むから、自分をないがしろにして生きないでくれ」

そっと伸ばされた手が、頭に乗せられて、小さく髪を撫でられる。

「おまえがちゃんと生きていこうとするだけで、俺たちは幸せを感じられる。おまえが生きて行くであろう世界を、守りたいと思える」

「クレイ、」

「おまえだって、俺の守る者の中に含まれているんだ。俺が守りたい存在の一つなんだ」

泣きそうに、クレイが笑うから、私はうつむくことしかできなかった。




















back/ next
戻る