ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 29
シュレーの丘でパッセージリングとやらを操作して、無事に魔界へと世界はおろされた。
充満する障気に、不安は消えないけれど、ひとまず崩落の危機は免れたわけで。
けれど、今、アルビオールからみた世界で、また一つ問題が起こっていた
「どうして戦争がはじまっていますの・・・!?」
お姫様の悲鳴に近い声。
それは私たちの心の中を如実に表していた。
マルクト、キムラスカ両軍が入り乱れる平野。
赤く染まりゆくその場所に、思わずふるえが走る。
横にいたルークが、なだめるように手を握ってくれた。
エンゲーブの住民の避難
カイツールでの停戦の提示
今必要な二つの行動。
エンゲーブの方へ割り振られた私は、今、ジェイドさんを前に立ち尽くしていた。
「あなたはアルビオールに乗ってください」
女子供、老人をアルビオールに乗せて、残りは戦場を突っ切る。
そしてジェイドさんたちは彼らを守り、ケセドニアに向かう。
当然、私もそちらにつくものだと思っていた。
彼らと共に、戦場を抜けるつもりにしていた。
だというのに、目の前のジェイドさんは、私にアルビオールに乗れと言う。
「私も、戦場を突っ切るつもりでした」
今の思いをそのまま言の葉にのせれば、紅色がすがめられて。
「アルビオールのみなさんのそばにいてあげてください」
かちゃり、めがねによって表情が隠される。
「あなたに戦場を抜けさせるなど、危ないことはしてほしくない」
気休めの、名ばかりの言葉。
そこに隠される意図を理解できないほど世間知らずではない。
でも、聞かずには入られなくて。
「本音は?」
小さく、声が震えたのはばれただろうか。
「守る人間は一人でも少ない方がいい」
ため息と共に、言葉は落とされた。
「あなたを連れてきたのは私です、が申し訳ありません。今回はあなたを守る余裕はない」
めがねの奥、瞳が、私を鋭く貫く。
「目の届くところに置けば安心できるかと思ったのですが・・・こうなるのなら、あなたを連れてきたのはやっぱり間違いだったかもしれませんね」
「それでは出発します。みなさん、席から立たないようにお願いします」
ノエルの優しい声が響く。
戦場を見下ろして、アルビオールは空を駆ける。
戦場で役に立たないのは知っている。
薬草は万能ではないから治るのに時間がかかって。
戦場では治療術があって、それに頼れば怪我はすぐに癒える。
それでも、共にありたかった。
守られるばかりの立場は重々理解していたけれど。
危険なのは共に行動しだしたときからわかっている。
こんなところで優しく突き放されるくらいなら、守れないけれど、一緒に来い、といってくれればよかったのに。
_目の届くところに置けば安心できるかと思ったのですが・・・あなたを連れてきたのはやっぱり間違いだったかもしれませんね。_
何度もリピートされるジェイドさんの声。
仕方がないとわかっていても、すべてを、否定された気がした。
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