ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 30
足手まといが、苦しい。
悔しくて、彼らの枷にしかなれない自分が、情けなくて。
彼らと共に、これからを歩んでいきたいくためには、私は自分を守れる力を手に入れなければいけなかった。
ケセドニア。
流通の要であるはずのその場所はいつもの活気をなくしていて。
人々は皆、不安げな表情を隠せなかった。
「」
ノエルたちから離れて、自分の仕事をこなしていた。
が、
名前を呼ばれて振り向いた先、そこには緑色を纏う少年の姿があって。
緑の髪
白い法衣
柔らかな微笑
それは確かに”イオン”の姿で。
でも、それは確かに、”シンク”だった。
「シンク」
名前を、呼べば、かすかに彼の顔がこわばった。
けれどもそれを隠すようにふわり、彼はほほえむ。
「、僕を忘れたんですか?」
困ったように、悲しそうに、とてもきれいに”イオン”を演じる。
でも、だめだよ。
「忘れてないよ、シンク」
今度こそ、彼の顔がゆがむ。
「あなたはシンク、でしょう?どんなにイオンを演じても、私にはあなたがシンク以外に見えない」
一歩、距離をつめて、髪にふれる。
柔らかな手触り。
きれいな色。
けれどもそれは、確かにシンクのもので。
ぱしり、痛いほどの力で、手が捕まれる。
「何なのさ、あんた」
柔らかく円を書いていた瞳が、つり上げられる。
それはシンクの表情で。
「うん。やっぱりシンクはその目つきだよね。イオンみたいに笑ってるとなんか、違和感しか感じない」
手は、痛いけれど、笑って告げる。
それに対してシンクの瞳が大きく見開かれて、そして、あざけるように笑った。
「ここに一人でいるってことは、さ」
ぎり、と腕の力が強まった。
「おいてかれたんだ?」
疑問のはずなのに、断定の口調でシンクは告げる。
「戦えないあんたは、足手まといだって言われたんでしょ?」
楽しそうに、シンクは言葉を紡ぐ。
「あんたの存在は、これからの世界の、何をかえることもできないよ」
頭の中によぎる、これからの世界。
死んでいく人たち
責を背負う子
消えてしまう彼ら。
変えられなければ、みんなが悲しむ。
「ねえ、ヴァンもあんたがこっちにつけば何も言わないよ」
突然の言葉。
まるで甘い蜜をはくように、シンクは笑う。
「一緒においでよ」
シンクの瞳が、揺れる。
手を、振り払わないでと願うように。
「ぼくもあんたは足手まといだと思ってるけど、それでも
そばにはいてあげるよ」
そばにいてあげるから、そばにいてと、請うように。
「おいで、」
甘い甘い、誘惑。
けれど、それは、甘いくせに茨の道
その手は、とれないよ。
小さい力だけど、存在しないも同然の力だけど、それでも、イレギュラーとして、私はここにいる。
変えられない未来なんか、ない
目の前のシンクとだって、笑いあえる世界がある。
「いけないよ、シンク。一緒には」
私の言葉に、ひどく傷ついたようにシンクが止まる。
お願い、聞いて、最後まで。
「でもね、シンク。私はシンクとも一緒に笑いあえる世界がくるって信じてる」
私をつかんでいたシンクの腕を、あいてる方の手で握る。
だから、ねえ。
「シンク、あなたがこっちにおいで」
見開かれた瞳が、ゆれた。
ばしり、手をたたき落とされて。
「話にならないね」
彼はそのままくるりと踵を返す。
「シンク、私はあなたがほしい!」
お願い、まだいかないで。
「一緒においでよ。私はあなたと共に生きたい!」
伝えたいことがうまく言葉にならない。
「私があなたに居場所をあげるから、私が居場所になるから!!」
必死に声を張り上げて、必死に言葉を紡いで。
「シンク、私にはあなたが必要なんだよ!!」
返事のないまま、彼は姿を消した。
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