ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 31









!?どうしてこちらに??」

呼ばれた先。
ゆるりと振り返る。
緑色の髪
白い法衣
柔らかな雰囲気
少しだけ、驚いたような顔。

今度こそ、”イオン”がそこにいた。

「エンゲーブに向かったのではなくて?」

「大佐たちもこっちきてるってこと??」

姫様が、アニスがやつきばやに問いかけてくる。
ぼおっとそれを眺めていれば、金色が、心配そうな表情を見せて。

「・・・どうした?体調でも悪いのか?」

ゆっくりと、ガイに視線を合わせて笑う。
その後ろでも、クレイがじいっとこちらをみていて。

「大丈夫だよ、ガイ。だいじょうぶ、なにもなかったから」

だからお願い聞かないで。
言外に込めた意味に、賢いあなたたちは気づいてくれるでしょう?
悟ったように彼らは口をつぐんでくれて。

「ルークたちは、エンゲーブからここに向かってる。今、戦場を越えているところだと思う」

問いかけへの返事。
私の言葉に、イオンが、姫様が息をのむ。

「戦場、だって・・・?」

ガイが驚いたように繰り返す。

、は・・・?」

アニスがおそるおそる、というように聞いてくる。

「私は、役に立てないから。一足先にアルビオールでここに」

笑って、言って、見せる。
それはきっとひどい笑みだっただろうけれど、それでも、笑う。
彼らがなにも答えてくれないのは、みんなが理解しているから。

私が役には立てないことを。

だというのに

、無事でよかったです」

イオンは笑う。
ガイがほほえむ。
クレイがほっと、息をつく。
アニスが私の手を握る。
姫様がそっと私にふれる。

「これから先、何度もあなたに頼ることがでてくるでしょう。ですから、。私はあなたが生きていてくださって、本当にうれしいですわ」

柔らかな笑みで、なにもできない私を、許すように。

、イオン様、最近の薬のおかげで調子いいんだよ?いなくなったら誰がその薬をつくってくれるの?」

暖かな温もりで、動けない私を、後押しするように。

かたり、あきらめに傾いていた天秤が、動いた。

ああ、やっぱり、私は、彼を、シンクを、手に入れたい。
この優しさに、あの幼子もふれてほしい。
知らないままなんて、もったいないから。
私が居場所になるなんて言ったけれど、本当は違う。
私が、居場所がほしいだけ。
そばにいてもいいと、なにもできなくてもいいと、ただ、私を許して、無条件でそばにいてくれる、そんな存在がほしいだけ。
私を守ってほしい、なんて、後付けで

「ありがとう」

優しい人たちに、今度こそ、笑って声をかけられた気がする。



、少しだけお話いいですか?」

停戦協定の話をしにいくはずのイオンが、突如足を止めて私に声をかけた。

「僕は、一度ダアトに戻ります」

少しだけみんなから距離をとって、言葉を放つ。

「イオン、」

「だから、アニスをお願いします」

柔らかく笑みを浮かべて、彼は告げる。

「僕の大事な、大切な、たった一人の導師守護役を」

何かを決心したかのように、すべてを受け入れるように。

「先ほど、街でシンクを、みました」

それに、思わず息をのむ。

、あなたは知ってますよね?」

疑問のはずなのに、それは確信に近く。

「イオン」

名前を呼べば、ただ、笑む。
いつものように慈愛を浮かべたものでも、暖かなものでもなく。
それは、それはきっと、彼自身の本当の笑み。

「アニスと、・・・それからシンクをお願いします」

「そんなこと、言われたら、断れないよ、イオン」

思わずつぶやけば、とてもおとなしい笑いが落とされる。

「・・・がんばるよ、イオンの大事な人と、それから、お兄ちゃん、だもんね」

そう言えば、きょとり、と表情を変えて、そして照れたようにほほえんだ。

「そっか、お兄ちゃん、なんですね・・・」

家族という、その感覚を、きっと彼は理解できていない。
でも、それでも、彼はこれからそれを知ることができる。

「アニスの両親のことは、僕が何とかして見せます」

捕らわれているであろう、彼ら。
イオンが、それを知っていることに少しだけ驚いた。

「僕は、僕にしかできないことを。、あなたには、あなたにしかできないことを。お互い、なにもできないままでいたくはないでしょう?」

私が口を開く前に、畳みかけるように、彼はそう言った。


















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