ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 32









「偽の女王です!!」

言葉もなく、戦慄く姫様。
それに対してあざ笑うのは大詠師、モース。

イオンの離脱
それに伴うアニスの導師守護者解任
バチカルへと向かう道は閉ざされて

アッシュによるオアシスへの呼び出し

いろんなことが一気に起こりすぎて、頭がパンクしそうになる。
というか、今まで起こったことですでに、頭の中の容量はいっぱいいっぱいなのだ。
けれど、今、声をかけなければいけない人は___



「アニス」

うつむくツインテール。
イオン自ら解任を告げられて、その背中はひどく小さく見える。
空元気をみせているけれど、それでも落ち込んでいるようにしか見えなくて。

「イオンがね、言ってたんだ」

脳裏に浮かぶかわいい導師。
けれども、本当はとてもおとなしく笑う人。
とてもとても、きれいに笑って、
本当に、本当にうれしそうに

「アニスは、僕の、僕だけの導師守護なんです。たくさん迷惑かけているのに、いつだって守ってくれる。 かわいい外見なのに、口は悪いしお金にがめつい。でも、それすらかわいい。僕の大切な導師守護者です。 だからこそ、彼女のすべてを、守りたい」

嘘偽りなど感じられない本当の言葉。

「ねえ、アニス」

驚いたように私を見上げる小さな守護者。
小さなその口がイオンの名前を告げる。
幼きその身に背負い続けている罪。
罪悪感で押しつぶされそうで、それでも必死に一人でたって。
ねえ、知ってる?アニス。
あなたはあの導師を守ると同時に、あの導師に守られているってこと。

「だから、大丈夫」

「だいじょうぶ、なんかじゃ、ないよっ」

こらえるように、痛みに耐えるように、アニスはうつむく。

「なにも知らない癖にっ、」

悲鳴のような声。
そうだね、私はなにも知らない、知らないふりは、得意なんだ。

「大丈夫、だよ。アニス。私とイオンが、絶対にアニスを助けるから」

ぎゅう、と体を抱きしめて、なだめるように言葉を紡いで。

なんか、なにもできないくせに!!」


力一杯、抵抗されて。

それでも離すことはしない。

「そうだね、私は弱い。守ってもらわなきゃ生きていけない」

なんかにっ、なにができるのっ!!」

なにもできないかもしれない。
何の役にもたたないかもしれない
でもね、
この世界に、私はイレギュラーとして存在している。
あの世界の、物語の中には存在していなかった私がいる。
それは、この世界にとって、異端で、同時に希望で。

「アニスを助けることができる」

助けてみせるよ
ぴたり、腕の中の抵抗がやむ。
代わりに小さく体が震えて
そおっと、アニスに言葉を促す。

「ねえ、アニス。頼ってよ、仲間でしょう?」

ぐっと強くなる抱きつき返す腕。
迷う心が手に取るように見えて。

「私は、なにを言われても、アニスを信じ続けるからね」

すがりつく小さな手

「ど、したらいいか、わかんないのっ」

おびえる表情

「一人でずっと、苦しくて、」

揺れる瞳

「でも、誰にもいえなかったっ!」

力が一番強くなって。

「お願い、っ、ったすけて・・・!」

心からの叫びは、確かに私に響いた。

「もちろんだよ、アニス」

落ち着くまで優しくふれ続けて。
ようやっとこちらをみたアニスは少し照れくさそうに笑った。

「アニス。私はイオンから、アニスを守ってねってお願いされてるんだ」

そう言えば、きょとりとアニスは赤く染まる目を瞬かせて。

「でもね、どうがんばっても、敵さん相手には勝てないんだよね」

笑って言えば、アニスがいたずらっぽく笑った。

「仕方がないから、私がを守ってあげるよ。どうせ、イオン様も今はいないからね!」

アニス、私を信じてくれてありがとう。














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