ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 34









アッシュの言葉に従うように向かったザオ遺跡。
確かにそこに、セフィロトは存在していて。

「きれい・・・」

初めてみたそれに、思わずため息が漏れる。
きらきらと光の粒が輝くその場所は、幻想的で。

、初めてだっけ?」

アニスの問いにうなずく。

「確かに、きれいな場所ですわよね」

姫様もほお、っと息をつく。

「見とれるのは結構ですが、ぐずぐずしている時間はありませんよ」

ジェイドの言葉にあわてて止まっていた足を動かした。



「俺の、超振動なら・・・!」

書き込まれている言葉を書き換えるには、より力の強い上書きが必要。
そう言われて皆が目を向けたのはルーク。
誰よりも強い力を持つ彼は、その視線に促されるように一歩前へと進んだ。
でも、その瞳は不安でいっぱいで。

「ルーク」

名前を呼んで、その手に触れる。
小さく震える幼子の手に。
そしてまじないを唱えるように繰り返す。

「だいじょうぶだよ、ルークなら、できる。だから、大丈夫。あなたの力は、みんなを守れる」

緊張をほぐすように、その手をなでて。
震えるからだを止めるように笑みを浮かべ
気持ちを落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
大丈夫、大丈夫。
自分を信じて、ルーク。
あなたがあの悲劇を、繰り返しはしないって。

私は知ってるから。

・・・」

それでも不安そうなルークに、にやり、笑って見せた。

「ルーク。私は、知ってるよ。ルークなら、できるって」

私の言葉に、ルークが目を見張る。

「それとも、私が信用できない?」

私の言葉に、ルークは泣きそうに笑ってつぶやいた。

「信じてるよ、のこと。だから、うん。大丈夫」

操作を始めたジェイドとルーク。
そのじゃまをしないように皆が一歩下がって。

「ティア」

ささやくような声で、彼女の名前を呼ぶ。

?」

帰ってくるのは不思議そうな声。
その顔色は優れない。
セフィロトの操作版の前。
彼女によって確かにそれは、開いて。

でも、代償とばかりに、彼女は倒れた。
彼女は今、障気に犯されている。

「ティア。お願い、これを飲んで」

そっと差し出した包み。
障気を中和する役割を果たす。
怪訝そうな顔をするティアに笑って見せて、

嘘をつく。

「さっき、倒れたでしょう?心配だから。疲れがとれる薬だよ」

誰も知らないであろう原因を、私は知っている。
うそをついて、あなたを救える一歩を踏み出す。

「ごめんなさい、心配かけたのね・・・」

困ったように笑うティア。
そう言う風に笑ってほしい訳じゃないのに。

「ありがとう」

でも、きれいに彼女は笑うから、同じように笑い返して見せた。
成功した、とジェイドの告げた言葉。

「ティア!」

うれしそうに駆け寄ってきたルークは、ティアに抱きつく。
ほほえましいその様子に笑みをこぼせば、目があったルークがとてもとてもきれいに笑った。



ザオ遺跡から外に向かっている最中。
時々出現する魔物をあれよあれよと周りのメンバーが倒してくれて。
できることもない私は、ただミュウを抱えてついていく。
腕の中のミュウミュウなく存在は、とてつもなく癒される。
足は痛くないか、大丈夫か、など時々ルークやガイが気にかけてくれるたびに笑って返す。
入れ替わり立ち替わり、横に来る人物がかわるので話がつきることもなく。
そうして、今は横にアニスがいた。

は、甘いよ」

彼女の口から紡がれる言葉は、少し痛みを伴って胸に響く。
むすり、頬を膨らますアニス。
柔らかそうなその頬を思わずつつけば、ぷう、と空気が抜ける音。

!」

怒って足を止めるアニスに笑う。
そんなアニスだって、十分に甘いのにね。

「いいよ、甘くて」

そんな返しがくるとは思わなかったのだろう、立ち上がって、拳を降りあげた状態で、ぴたり、止まる。

「私なんかが甘やかせる存在があるなら、うれしい。アニスが、私を甘いって感じてくれるってことは、アニスにとって私は甘やかしてあげられる存在だってことだよね」

そう言えば、怒っていた表情が困惑に変わる。
考えをまとめるように、いいわけを探すように、視線をさまよわせて。
そして、そっと、うつむいた。

は、甘やかしてくれるから、・・・好きだよ」

小さな、小さな声で紡がれた言葉。
恥ずかしそうに視線をはずしてはいたけれど、それでも、それは私に対しての言葉。
かわいいかわいい、頼りになる私の大事な友達。
おもわず、その体に手をまわして、ぎゅう、と抱きしめてみた。
小さくこわばった体を、そっとなだめるようになでて。

「あら、なにをしていらっしゃるの?」

姫様の声にちらり、そちらをみれば、苦笑するガイ。
満面の笑みのジェイド。
不思議そうなルーク。
ため息をつきたそうなクレイ。
うらやましそうにこちらをみるティアが目に入って。

「・・・ティア!姫様!」

名前を呼んで、ばっ、と手を広げれば、ぴん、ときたのか、姫様がこちらに走ってきてくれて。
ぎゅう、とアニスを挟むように抱きついてきてくれた。

「ナタリア!」

ティアが焦ったように叫ぶものだから、もう一押し、とばかりにティアに言葉を投げかける。

「アニスがイオンがいなくて寂しいって。ティアもアニスをぎゅうってしてあげよう!」

!?私そんなことっ___」

アニスの言葉を遮るようにティアが抱きついてきてくれた。
のりのいいお姫様が、私をみてほほえむ。
ティアが、愛しそうにアニスを眺めて。
恥ずかしそうに、けれど、ほっとしたように、アニスが私にすがりつく。

”偽りの姫”突然の疑惑を投げかけられて、今までのすべてを否定されたお姫様。
実の兄を疑わなくてはいけなくて、今では敵対しなければいけなくなったティア
大好きな両親を守るため、大切な人を裏切らなければいけないアニス。
優しい優しい彼女たちは、皆が皆、その身に重い枷を持つ。
まっすぐに、生きることを許されない。
それでも彼女たちは、
私の大事な仲間で、友。

壊れないように、壊されないように、この手を広げて、彼女たちを、守ろう。













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