ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 35









崩落は、預言に詠まれているのか。
そうだとすれば、なにができる?
ユリアシティで見つけられなかった答え。
その答えが存在するのはダアトで。
最高指導者である導師イオン。
唯一答えを持ち得る彼は今この場所にいる。



「あ、ごめん、ちょっと調達したいものがあるので先に行っていてください」

信仰の象徴ともいえる協会を取り囲むように作られた大きな街。
イオンを探して協会へと足を進める皆に言葉を投げた。
クレイをついてこさせようとするナタリアたちと一悶着はあったけれど、どちらかと言えば危ないのは彼女たちの方なのでなんとか説得して。
いつもの通り薬を卸ろしたかったのもあるけれど、一番の目的はそれじゃなくて。

足を向けたのは道具屋さん。
今使っている調合の道具を新調するために。
これから先、さらに使用頻度が高くなるであろうそれら。
いざというときにちゃんと使えるように。
彼らの命を、救うことになると信じて。



用事を終わらせて協会へと向かう。
さて、彼らはどこにいるのだろうか。
多くの参拝者の中しばし考える。
と、
視界を掠めたのは、きれいな緑色。
惹かれるままに追いかければ、そこにはイオンの姿。

「!」

追いかけて白いきれいな法衣を掴めば彼は驚いたように振り返って。



でも、目があったその瞬間、とろけそうに微笑んで私の名前を呼んだ
法衣を掴んでいた手が、イオンの柔らかな手に包まれて。
それはそれは嬉しそうに彼はぎゅうと手を握ってくれた。

「イオン、元気?無理してない?」

図書館に向かう予定だったというイオン。
彼に握られた手を握り返しながら、問いかける。
あまり顔色はよく見えないけれど、それでもその表情は豊かで。

「大丈夫です。ありがとうございます、

ふわり、ふわり、春の日溜まりみたいに笑うイオン。
優しいそれに、心が癒されていく。

「僕の守護役は元気ですか?」

”僕”の守護役。
僕だけのものだと、そう主張するようにイオンは言葉を紡ぐ。

「あんまり元気じゃないかな。寂しがってたよ」

そういえば、困ったように、でもどことなく嬉しそうにイオンは微笑む。

「・・・彼女が僕のことで落ち込んでくれることが嬉しいって、そういったら、は僕を軽蔑しますか?」

そお、っと伺うように、彼はこちらをのぞき込む。
きっと彼の中でアニスへの感情が揺れ動いているのだろう。
愛しい、そう感じることも、生まれて二年しかたっていないイオンにとっては初めてのことで。
答えない私にイオンの眉が徐々に下がり出す。

、」

促すように名前を呼ばれる。
思わず、とばかりに彼の足が止まる。
そんなイオンの一歩前にでて、先ほどとは逆に今度は私が彼をのぞき込む。

「軽蔑なんかしないよ。むしろほほえましい。好きな人が自分のことで一喜一憂してくれるのは、本当に嬉しいから」

じわり、頭の中に浮かんだ蒼色。
きれいな紅色の瞳。
少し皮肉るように笑うけれど、その心はとても優しくて。
いつだって、自分の罪を許せずにいるかわいい人。
彼が、私のことを心配してくれることが、とても嬉しい。
生きていてよかったと、生に関心の持てないはずの彼が、そうつぶやいたことがどうしようもなく嬉しい。

「好き・・・そうなんですね・・・」

イオンがつぶやく声。
ああ、私も、気がついた。

「僕は、彼女のことが、好きなんですね。他の人に向ける、好きとは違う感情。これが、愛しい、なんですね」

イオンがアニスを想うように、私は彼を、想っている。

「僕は、アニスが、好きです」

とろけそうに、彼は笑った。

私も、ジェイドが、好き。

気がついた途端、恥ずかしくて、照れくさくて、でも、幸せな感情になる。

「だからこそ、僕は誰よりも彼女を守りたい。彼女を、苦しめるすべてのものから」

「守れるよ、イオンなら、守れる」

その言葉にイオンはうなずいてくれて。

「アニスの両親は、僕が保護します。ですが、。申し訳ありません。僕では彼らをこのダアトから逃がすことが難しい。・・・手を、貸してくれますか?」

彼は、いつから気がついていたのだろうか。
彼は、いつから知っていたのだろうか。
強い意志の秘められた瞳は、ただまっすぐに私を射抜く。
うなずけない、私じゃない。

「もちろんだよ、イオン。私にできることは、私がやる」

安心したように彼は微笑む。

「イオンとの秘密が、また増えちゃったね」

「アニスが嫉妬するかもね」

「それは、・・・少し嬉しいかもしれません」

二人で顔をのぞきあって、照れながらも笑って見せた。



そういえば、とばかりにイオンは首を傾げた。

「どうしてここに?」

「イオンに会いに来たんだよ」

真実を、簡潔に述べる。
そうすればふわり、優しい笑みはたくましいものに。
まっすぐにこちらをみる瞳は導師のものに。

「お聞きしましょう」

生まれて二年
されど二年
彼は導師として、ここにいる。
その姿は凛として逞しく、伸ばされた手は、すべてのものを守り慈しむよう。

「イオン!」

図書室の扉が開かれて、そこから姿を現したのは、紅色をまとうルーク。
ジェイド、アニス、ティア、ナタリア、ガイ、クレイがそれに続いて。

「みなさん」

皆を写して、イオンの瞳が優しくすがめられる。

「お話を、聞かせてください」

導師イオンの姿が、そこにあった。












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