ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 36
秘預言
導師であるはずのイオンは、一度も詠んだことがなかったと告げる。
それに対してジェイドはかすかに反応を見せたけれど、それだけで。
「お体に、さわりますよぅ・・・」
心配そうな表情を見せたアニスに、イオンはとろけるような笑みを返す。
「心配してくれてありがとうございます。アニス。それでも、僕は知りたいんです」
意志を曲げないイオンに渋々、とばかりにアニスは一歩下がる。
そうして、紡がれ出すのはこの星の辿る道。
詠み終えたとともに、体を傾けるイオンをアニスがあわてて支えて。
「これが、記されている全てです」
イオンが少し荒い息でそう言った
「全部、預言は知っていたってことだよね」
アニスがイオンの手をぎゅっと握った。
「アクゼリュスの崩落は、本当に預言に読まれていた・・・」
愕然と、ティアがつぶやく。
「”ルーク”という存在を、生け贄にして・・・」
ナタリアが、信じられないと声を震わせる。
「なにが、預言だ・・・!」
ガイがぐっと拳を握りしめた。
「陛下・・・」
仕える人物だからこそ、クレイの落胆は大きく。
ジェイドさんはただ、なにもいわずうつむいた。
きづいて、ねえ、気づいて。
その預言はすでに狂っているって。
ただ、立ち尽くす紅のそばに寄り添う。
「それでも、ここに、ルークは生きている」
私の言葉に、皆が体をふるわせてルークをみる。
一斉に視線を向けられて、ルークは躊躇するように足を一歩下げて。
「預言では、ルークは崩落とともに死ぬはずだった」
横にいるルークが怯えるように手を、握りしめた。
それを納めるように、なだめるように、そおっとその手を包む。
「でも、ルークは確かにここにいる」
「そして、この預言に詠まれているルークとここにいるルークは、ちがう」
ジェイドさんの言葉。
ナタリアが、ティアが、今度はイオンをみて。
それに答えるようにイオンは言葉を紡ぐ。
「詠まれている”ルーク”はアッシュのことでしょう」
「つまり、この預言には、レプリカのことが抜けているってこと?」
「レプリカの存在が、ない・・・」
アニスがつぶやいたそれを、ルークが繰り返した。
「俺が、生まれてしまった、から・・・?」
泣きそうな声を発したルーク。
慰めるようにつないだ手を揺らす。
「違うよ、ルーク。つまり、ルークは希望だよ」
ゆるり、向けられた緑色の瞳。
不安でいっぱいの瞳は、確かに私を写す。
唯一預言に詠まれていない存在。
たった一人、自由な少年。
あなたが動くことで、世界は変わる。
あなたが歩くことで、世界は塗りかえられる。
「劇薬を望むヴァンに同意はできないけれど、それでも、ルークをこの世界に誕生させてくれたこと。それに関してはすごく感謝をしているよ」
「ルーク、あなたは、希望だ」
私の言葉に、ルークはただうなずいてくれた。
※※※
ほぼ捏造
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