ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 37
「おっと、・。あなたはこちらです」
どうしてこうなった。
以前も彼が原因でこの感情を抱いた記憶がある。
これがデジャブというやつか。
突如現れた神託の盾。
イオンに見送られて彼らから逃げたけれど、操縦士であるノエルを人質にされてはそれもかなわなくて。
捕まれた腕。
逃げることなど許されず、バチカルへと連行される一行と離されて一人ダアトへと残される。
「ディスト、なにをするつもりです」
ジェイドさんの言葉にもにんまり、と笑うだけのディスト。
ぶっちゃけ、怖い。
なにをされるのだろうか。
ジェイドさんと離されることに、どうしようもなく恐怖を感じた。
「ジェイドが注目しているというあなたの知識に少々興味がありましてね」
目の前には六神将、死神のディストとあたたかな湯気を立てるお茶。
なぜ、こんな怪しげな研究室にて、彼、ディストと二人でお茶をしているのか、理解ができない。
それでも目の前の彼からはそこまで嫌な感じはしない。
ただ、純粋な好奇心が存在しているみたいで。
瞳に移る純粋さに嘘を紡ぐのもはばかられて、おとなしく彼が求める答えを返す。
作り出した薬について話せば、どうやらひどく興味を持ったようで、自分の譜業と組み合わせられないかとつぶやく始末。
想像とは違うディストとの時間は想っていた以上に有意義だった。
個人的に楽しかったのいは幼少時代のジェイドさんの話が聞けたことだ。
どうやら今と同じでかわいげのない性格だったらしい彼は、常にディストで遊んでいたらしく。
そのときのことを、おもしろおかしく(たぶんディストにとってはそんなつもりはない。)話してくれた。
「本当に、ジェイドさんのこと、大好きなんですね」
思わず、といった風に漏らしてしまったその言葉。
その瞬間、ピタリ、マシンガンのように続いていたディストの口が止まった。
あ、もしかして地雷だったかな、そう思いながらそおっと彼の顔を伺えば、そこにあったのは想像もしなかった表情で。
「ええ・・・大好きですよ」
泣きそうに、嬉しそうに、悲しそうに、どうしようもなさそうに、いろんな感情がごちゃまぜになったような表情で、彼は笑う。
「もうあのときが戻ってこないことなど、知っていますよ。そこまで子供じゃありません」
先ほどまでの口調とは全く違う、穏やかな声色。
過去を懐かしみながら、ちゃんと今を生きている人。
「それでも、今一度、あの時のようになれたならば、それはきっと幸せなことでしょう。ジェイドにネフリー、それからピオニー。ネビリム先生のもとで笑って過ごせたあのころのように」
穏やかに笑うディストに思わず手を伸ばす。
ぎゅう、とその体を抱きしめて、なだめるようにその背をなでる。
「ねえディスト。わかっていても、追いかけるの?」
戻らないあの人を。
決して甦りはしないあの人を。
「大事な幼馴染が諦めなければいけなかった夢を、親友である私が追い続けて何が悪いのです」
穏やかに、それでも頑なな意思は変わらない。
「彼が手放さなければならなかったならば、手放す理由を持たない私が引き継いだだけですよ」
ああ、ディストは、わかっているのだ。
ジェイドが、自らそれを封印したのだということを。
そうじゃなければ、こんな風には笑えない。
「ジェイドが過去を捨てたから、私がそれを拾っただけです」
彼は諦めてしまっている。
あのころのように戻ることを。
心の底からの決別を望むように、あえて彼の過去を引きずり起こす。
「私はこれからの未来のために、過去を利用したいんです」
ぐ、っと抱きしめた体を掻き抱く。
知って、理解して、お願い。
あなたは今を、生きている。
あえて過去をださなくても、あなたは彼と生きていける。
「ディスト、それをジェイドさんに素直にいえばいいんだよ」
彼は今もずっと、あの人にとらわれているのだから。
頭の中浮かぶ鮮やかな色彩。
どうして、彼らが敵対する必要などあるのだろうか。
抱きしめられることになれない不器用な子供のように、ディストは素直に体を預けてくる。
「ジェイドさんは、ちゃんと理解してくれる人」
「一緒に歩んでいきたいって、そう言えばいいだけなんだよ」
私の言葉にディストはなにも答えてはくれなくて。
ただ、こてりと頭を私の胸に預けるだけだった。
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