ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 42
「イオン様!!、え、!?」
アニスの両親の部屋。
イオンと共に彼らのところに訪れて、そこで再会したのはバチカルに連行されたはずのルークたち。
驚きの表情を見せる彼らに、曖昧に笑って見せた。
「アニスの両親には、グランコクマかバチカルに行ってもらうつもりです」
アニスを、見えない鎖に捕らわれたままのイオンの愛しい人を、助けるために。
モースによって人質となっている彼女の両親。
事はそう簡単ではないけれど、それでもダアトから引き離すのは一つの手で。
導師であるイオンからの言葉であればあの二人も素直に動いてくれるだろう。
もっとも、彼らは誰の言葉であろうと素直に信じてしまう性格だったりするのだけれど。
彼らをダアトからだすタイミングに関しては、私が願い出た。
”あのとき”よりも早く。
けれども早すぎないタイミングで。
知っている、だけの私ができる、確実なこと。
それ以外についてはイオンが。
優しい優しいあの少女が、大事な人をちゃんと守れるように。
あの子を束縛から説き放つために。
単純すぎる手だけれど、タイミングさえ間違えなければ、きっとできる。
もちろん、彼らにありのままを伝えられるはずはなく、イオンから、熱心な信者への贈り物、と称して伝えられた。
彼らはそれに対して大喜びで。
モースにばれては元も子もないので、時がくるまでは秘密にしておくように、アニスにも秘密だと告げれば、不思議そうにしながらもうなずいてくれて。
そしてタイミングよく、その話が終わったその瞬間に、彼らは現れたのだ。
「!?」
アニスの声にあわてたように紅色が部屋に飛び込んでくる。
ぱくぱくと、金魚のように口を開閉させて言葉を探す。
けれども、その言葉は彼の中で沈下してしまったようで、何が発せられることもなかった。
「、無事でしたのね!」
代わりとばかりに私に声をかけたのは姫様。
ほっとしたように、私に駆け寄ってきて、笑う。
そのまま、手を取られて___
「!!これはなんですのっ!?」
包帯の巻かれた手をみて、叫ばれた。
「何か無茶なこと、したのね?」
姫様に次いで手を取ったティアが包帯をはずして、かすかに怒った気配をにじませて言う。
「ヒール」
二人の七音素譜術師が、優しい声と仕草でその痛みを取り払ってくれて。
「少し、跡が残るわ・・・」
「どうしてもっと早く治療しなかったんですの?」
ティアが、申し訳なさそうにつぶやいて、ナタリアがもどかしそうに叫んだ。
「ええと・・・」
ヴァンは治療をしてくれる人をよこしてはくれなくて。
イオンの部屋にかくまわれていた私を、人目にさらすことはできなくて。
結果、治療は私の薬によって行われることになった。
まあ、残念ながら、材料の不足により、跡が残らない成分は付属させることができなかったのだけれども。
跡が残ることに関しては、別にそんなに問題だとはかんじていない。
ただ、こんなにも心配されるとは思っていなかったので、どことなく、居心地が悪くて。
握られたままの手を、優しく揺らして、大丈夫だよと告げる。
そうすればしぶしぶとばかりに二人は離れてくれて。
けれども、離れたそれは、再び温もりに包まれる。
捕まれた手から、ゆっくりと視界をあげていけば、そこには蒼。
そして、紅。
わたしのきずを、やわやわとなでながら、何を言うでもないジェイドさんが、そこにいて。
「あなたは本当に、目を離すとろくな事をしませんね」
ゆっくりと開かれた口からこぼれでるのはそんな言葉。
あきれたように、仕方がなさそうに。
伏せられた瞳に移る感情は、私には読みとることができなくて。
それでも、その手の優しさは嘘ではないと感じた。
「ルーク」
ジェイドさんに手を取られたまま、紅をみる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
魔法の言葉のように、彼に告げる。
私が告げるその言葉ほど、彼を安心させるものはないのだろう。
ふわり、紅はきれいに笑った。
そして、気づく。
一人足りない、と。
「ガイ、クレイは?」
金色の彼に問いかければ困ったように笑みを返されて。
「あいつはバチカルに残ったんだ」
それでもちゃんと返事をくれた。
「バチカルに?」
「お父様を、説得すると・・・」
瞳を伏せて姫様が言葉を紡いだ。
「それにあいつもそろそろ軍に戻らないといけなくてな」
姫様を慰めるようにガイはきわめて明るい声を出した。
ああ、そっか、あの幼なじみは、あの優しい子は、こんな風に落ち込むお姫様を放っておけるような性格じゃないから。
「イオン様、どうしてここに?」
私たちの会話が終了したのを見越してか、今更感はすごいが、アニスがイオンに問いかける。
不思議そうなその視線にとてもきれいな笑みを返しながらイオンは答える。
・・・気のせいだろうか。
イオンのアニスへ向ける笑みが、彼が自覚してからすごくあまくなったきがする。
「二人に少しお話がありまして。でももう終わりましたから」
本当の理由を話しながら、それ以上を言及することを許さぬとばかりにイオンはそう言葉を締めくくる。
そうすれば空気に聡い彼の守護役はそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。
「みなさんは、どうしてここへ?」
彼の言葉にルークたちも改めて言葉を紡ぎ始めた。
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