ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 43









「おもい、だしたっ」



イオンを取り戻そうと姿を現したアリエッタ。
彼女の攻撃は、守ろうとした人をねらう。

「イオン!」

思わず叫んで彼らの元にいこうとしたけれど、あっさりとジェイドさんに止められて。

「あなたが行って、なにができる」

わかっているよ、それでも、こんなところでそんな正論を聞きたくはなかったよ。
イオンをかばった彼女の姿に、ガイが低くうめいて、その場にひざを突いた。

小さくこぼされた、思い出したという言葉。

それは、彼を苛む過去の記憶__



イオンとパメラのことはルークたちに任せて、一足先に訪れたガイのところ。
目が合えば困ったように彼は笑って、自分の横を優しくたたく。
それに従うように一定の距離を置いて、彼の横に座り込んだ。

「思い出したんだよ・・・」

小さく、ぽつりぽつり、落とされる言葉たち。
それをただ、聞く。

脳裏に浮かぶ、きれいな金色。
確か名前は___

「マリィ」

小さくつぶやけば、ガイがぴたり、口を止めて。
こちらをそっとのぞき込む。

「姉上を、知っているのかい?」

それに対して、ふわり、笑う。

「以前に一度だけ。ガイ、あなたにもあったこと会るよ」

そう言えば、驚いたようにガイは目を瞬かせた。

「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」

私の住んでいたホドの領主の息子。
薬師としてお屋敷に呼ばれた両親についていったことがあった。
慈しまれて育ったあなたは、とてもかわいくて、弱々しくて。
これからが心配だ、と姉である彼女がいっていた。
けれども、その瞳には暖かな愛情があふれていて。

「とても、きれいな人だったね。強くて、気高くて。幼いながらに憧れたよ」

遠い過去の記憶。
それでも、根付く、敬愛の念。

「命を懸けて庇ってくれた彼女たちを恐怖と見なして忘れるとはな・・・」

自嘲を浮かべるガイ。
それに対して、そっと言葉を紡ぐ。

「ガイ、ごめんね」

「??」

不思議そうな声を上げるガイ。
彼と、目を合わせることができない。

「あのね、うらやましい」

「最後まで一緒にいれたこと」

「どんな形であっても、最後をみれたこと」

ぽつりぽつり
言っても意味のないことだって、わかってる。
それでも、じわじわとあふれだした感情は吐き出すことでしか収まってはくれなくて。

_だって、私は、両親の最後を知らない_

ぎゅう、と自分の体を守るように抱きしめた。

「え、」

ふわり、温もりが、体に広がる。



耳元でつぶやかれた声。
少しふるえたその声
目の前に広がる黄色色。
ふれた温もりが、怯えたようにふるえていて。
それらは、
確かにガイのもので。

「ガ、イ」

驚きのまま、言葉を落とせば、くつり、耳元で笑い声。

「情けないな、本当に。泣きそうな女の子一人だって、簡単に抱きしめてやれないとか」

伝わるふるえが、彼の心を現すようで。



頭を、そっと押されて、ガイの胸に頭を預ける。
ぐ、っと力を入れられて、なだめるように頭をなでられて。
いつも、私がルークにしていること。

「気づけなくて、ごめん」

ぽんぽんと、促すように

「頼れるものもなくて、一人だったんだよな」

優しく優しく、穏やかに

「泣け、

ゆるゆると、言葉が、ぬくもりが、私を解す。

「っ、」

ぼろぼろと、みっともなくあふれだした感情。
幼かったとき、あの時流すことのできなかった涙。
時をさかのぼるように感情が、濁流を起こす。
優しかった母
穏やかだった父
暖かだった生活
もっと一緒にいたかった
もっといろんなことを教えてほしかった
ただ、人のためにあれる人たちだったから
そのお手伝いができれば幸せだった
最後に笑っていたであろう、両親の顔。
今ではもう、思い出せなくて。

ねえ、どうして、
あの日、崩壊する日。
急かすように両親は私を島から出して。
いつもだったら、絶対に一人でなんかいかせなかったのに、いってらっ
しゃいって、送り出して。

すべてを、知っていたかのように、あなたたちは___

「一人でおいていくくらいならっ、一緒につれていってくれたらよかったのに!!」

あふれる感情をそのままに、ただ、叫んだ。
そうすれば、圧迫が、強くなって。

、頼むから、そんなこと言わないでくれ」

くぐもったような声。
泣いているようにも聞こえたガイの声。
懇願するように、彼は言う。

「そうだよ!!!」

「生きていることを、否定しないでください」

いつのまにかきていたのか、アニスが、イオンが、叫ぶ。

「私は、にあえて嬉しかったのよ?」

「出会えたことに感謝していますわ!」

ティアが、姫様が、穏やかに言葉を紡ぐ。

、俺と会えたことは、にとってマイナスにしかならなかったのかな・・・」

「違うよルーク!そんなことないっ」

ルークの声に、おもわずさけぶ。
あなたたちとの出会いは、私にこれからを、確かなものにしてくれた。
この世界で、これから先も、生きていきたいって思わせてくれた。

「ルークたちとの出会いは、私にとって奇跡なんだよ!!」

あなたたちに出会えたこと。
それは、あなたたちが思っている以上に、稀有なことで。

「では、もうそのようなこと、言わないようにお願いしますね」

決して暖かくはない声。
どちらかといえば、冷たいそれが、緩い温もりと共に落とされる。
先ほどから一言も発することのなかったジェイドさんが、私の頭をなでるようにかすめて。
思わず見上げたその先、紅色の瞳が、不機嫌そうに揺らぐのを、ただ見つめた。












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