ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 44









アルビオールの中。
シェリダンへ向かうのに、皆思い思いに過ごしていた。
けれども、私にそれが許されるはずもなく。
アルビオールに乗った瞬間、いつもは笑みを浮かべているジェイドさんが、無表情で私の腕をつかんで、そうして言葉を発した。

「失礼。少々と話がありますので二人にさせていただきます」

真顔のジェイドさんに引きずられていく私を、皆が気の毒そうに見送った。
・・・ガイ、頼むから合掌はやめて。



ジェイドさんに促されて、一つの個室に足を踏み入れる。
後ろで扉が閉まる音。
ふりむけば、近づいてくるジェイドさん。
そして、ガン、と目の前にふりおろされた蒼色。
行く手を遮るように壁に打ちつけられたそれは、もちろんジェイドさんの腕以外の何者でもなくて。
堅く、握りしめられた拳が、ふるえていた。
ゆっくりと、彼の顔を見上げれば、ただ、無表情がそこにあった。

「私の、言いたいことがわかりますか?」

疑問文だというのに、それは、答えを求めない声色で。

「ジェイド、さん」

思わず、名前を呼ぶ。

。私は、あなたに言ったはずです」

ゆるり、傷が残ったままの綺麗ではない手が、とられた。
そこを、優しくいたわるようになでられて。
至近距離で、紅色に射ぬかれる。

とても、きれいな、色。

「私をおいて、いなくなるのは許さないと」

この人が、執着するものが、私であることが、ずっとずっと、信じられなかった。
でも、わかった。
この人のことが、好きだと、自覚したときから気づいてしまった。
彼が私を好きでいてくれるのは間違いなくて。
それがどういう意味での好きなのか、それはわからないけれど。
それでも、たしかにこの人は私がいなくなるのをおそれていて。
だからこそ、今はその感情に甘えたい。
 取られていない手を、のばす。
その体に手を回して、縋る。
微かに息をのむ気配。
けれどもすぐに体は温もりに包まれて。

「ごめんなさい」

おいて行かれるのは怖いこと。
一人残されるのはつらいこと。
わかっていたのに。
知っていたのに。
彼にそれを強制する言葉を突きつけた。
刃となって放たれた言葉は決して戻ることはなく。
ただ鈍痛となって、彼に突き刺さる。

「私に出会えたことを、奇跡でかたづけないでください」

少しだけ、掠れた声で、ジェイドさんはつぶやく。

「あなたに巡り会えたことを、否定しないでください」

強くて、とても強くて、そして脆い人。

「もう、言いませんから」

あなたが私をおいて行かなくてすむように、私は私だけの武器を手に入れるから。
だから、もう少しだけ待っててください。

ジェイドさん

ぎゅう、ともう一度だけすがりついて。
そして、距離をとる。
否、とったはず、だった。

「・・・ジェイドさん、ちょっと近くないですか??」

腕を突っ張ってみるけれど、その距離すらとれない。
相変わらず至近距離で見つめられて、頬がじわりと熱くなる。

「おや、顔が赤いようですね。どうしましたか?」

それはそれは楽しそうに彼は言う。
そっとうつむいてみるけれど、視線は追ってきて。

「・・・はずかしいです」

自覚しちゃった私には。

「ではもっと意識してください」

かみに、ほおに、ぬくもりがおとされて、息をのむ。
顔を上げれば、ジェイドさんは少しだけ幸せそうに笑っていた。
















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