ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 46










「アニス!!」

とても、とても綺麗な蝶を追いかけて、アニスが走る。
同時に起こる地震。
崩れる崖。
宙へと、さまよう小さな体。
反射的に飛び出して、その手を掴む。
自分の体と入れ替えるように、アニスを引っ張り戻す。
そうすればアニスは無事に崖の上に戻れて。
代わりに自分の体が宙に放り出される。
落ちる___
一瞬の恐怖の後、がくん、と腕に走る痛みと温もり。
思わず閉じていた瞳をあわてて開けて見上げればそこには苦しそうな顔をしながらもしっかりと私の手を掴むガイの姿。
そのままルークが、ジェイドさんさんが、ガイの体ごと私を引っ張りあげてくれて。
地面にようやっと足を着けた、その瞬間。
ぐ、っと力強い温もりに包まれた。
最近感じたその香りと温もり。
それはガイのもので。

「怖いこと、しないでくれっ・・・!」

震えているその腕。
女性への恐怖か、失うことへの恐怖か。
私では判断できなくて。

「たすけてくれて、ありがとう、がい」

今頃になって震えだしたからだ。
それを隠すようにガイにすがりつく。

っ」

泣きそうな声。
視線を向ければゆがむ顔。
アニスがイオンに支えられて立ちすくんでいて。

「アニスが、ぶじでよかった」

笑ってそう言えば、彼女の顔はさらにゆがんで。
ちいさなその口が、ばか、とつぶやいた。

「ガイ、には触れることができるようになったんですね」

ジェイドさんが楽しそうに口角をあげて問いかけた。
それに対して困ったようにガイは笑って。

「いや、たぶん少しずつだけどほかの女性にもさわれる、とおもう・・」

少しだけ自信なさそうに彼は告げる。

「本当ですの?」

ずずい、と姫様が。

「大丈夫?」

横からティアが。

「べたべたべたべた」

後ろからアニスが、ガイへと触れる。
びくり、びくり、そのたびに体をふるわせるガイだけれども、それでも逃げることはなくて。

「まだ、少し怖い、けどな・・・」

困ったように、けれどもやっぱりうれしそうにガイは笑った。



「なあ、ちょっといいか?」

タタル渓谷でのパッセージリングの操作を終えて、再びシェリダンへと戻ってきて。
ずっと何事かを考え込んでいたルークが意を決したように皆の顔を見つめて言葉を発した。

「どうしたの?」

ティアの促す言葉に、ルークの瞳は揺れて。

「ずっと考えてたんだけど、大陸の降下のこと、俺たちだけで進めていいのかな・・・?」

「どういうこと?」

アニスが首を傾げて問う。

「世界の仕組みが変わる重要なことだろ?やっぱり伯父上とかピオニー皇帝にちゃんと事情を説明して、協力すべきなんじゃないかって・・・」

ぎゅう、っと握りしめられた手が、返事をおそれるように震えている。
過去のルークならば思っても告げなかったこと。
彼は確かに成長していて。
ジェイドさんが、ガイが、ティアが。
彼の成長をかみしめるようにうなずく。

「そのためにはバチカルにいかなくてはなりませんわ・・・」

姫様が、怯えるように瞳を伏せてつぶやいた。

「いくべきなんだ」

自国へと戻ることをおそれる姫様に、強く、でも優しく諭す。

「今度は俺たちが、みんなを助けるべきなんだ」

命を懸けて守ってくれた民たちを。

「その通りよ、ルーク」

ティアが、まぶしいものを見るかのようにルークを見つめて答えて。
ティアの答えにほっとしたようにルークはつめていた息を吐い。
ばちり、合った瞳が瞬いて、うれしそうにふにゃりと笑って。

「少しだけ、考えさせてください・・・」

ためらいを多分に含んだ瞳を瞑ってお姫様が小さく告げた。













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