ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 47
「ジェイドさん」
お姫様が考えるための一晩。
けれどもそれは、今まで怒濤の勢いでことをなしてきた私たちにとっての休息でもあって。
機会仕掛けの楽しい街を一人、巡っていれば見えた青色。
彼は名前を呼べば振り向いてくれて。
「」
柔らかな笑みとともに名前が呼ばれた。
ああ、好きだな
自然に落ちた思考に、自分でも思っても見ないほど柔らかな笑みが浮かんで。
「どうしました?」
ジェイドさんが少し不思議そうに首を傾げた。
愛しい
その感情を、私が持つことになるとは思っていなくって。
きれいな髪も
少し鋭い瞳も
小さく笑う口元も
柔らかな物腰も
私をなでる、大きな手のひらも
それらが直結する感情は、愛しい、というもので。
「いいえ、なにも」
告げたい、と思わないこともなかったけれど、それでもこの人の手を煩わせたくはないから。
あふれんばかりの感情をそっとなだめて、彼に笑う。
そうすればジェイドさんは困ったようにほほえんで。
「あなたはいつもそうですね」
仕方がなさそうに息を吐く。
「私にはなにも話さない」
ルークには話すくせに。
言外にそんな言葉が込められていて。
なにも知らないふりをして首を傾げてみせる。
あの子は、あの紅い髪の子は。
ルークは受け入れてくれるって言ったから。
私を信じてくれるって。
一緒に罪を背負うって。
それは、いわば、共犯者。
だから、ジェイドさんには、言えないよ。
ましてや、この感情なんか。
本人に伝えられるはずはない。
「」
再度呼ばれる名前。
何でもないふりをしてその瞳を見つめれば、鮮やかな紅に目を奪われる。
「今回のことが終わったら、一緒にグランコクマに来なさい」
伸ばされた腕が私に触れて。
髪が柔らかく梳かれる
「私の家を引き続き使っていいですから」
それは未来への約束。
離れなくてもいい。
その事実にじわり、喜びが浮き上がって。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
ジェイドさんは楽しそうにうなずいてくれた。
翌朝、しっかりとした意志を瞳に秘めたお姫様は自国へ戻ることを決断した。
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