ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 49









「ありがとうございます、

お城から出てきたお姫様は、少しだけ赤く染まった瞳でとろけそうに笑った。



次に向かったグランコクマ。
出迎えるのは満面の笑みの皇帝。
降下作業について、障気の問題について、ルークたちの話に深く聞き入っていた皇帝はあっさりとうなずいた。
それこそこちらが拍子抜けするくらいに。

「俺の懐刀は頼りになるからな」

彼の、ジェイドさんに向ける信頼の高さがうかがえて。



ぼんやりと、仲間たちが陛下へと話をつづる様を眺めているだけだった私。
それをとがめるようにジェイドさんが名前を呼んで。
ゆっくりと陛下の御前へと足を進めた。
きらきらと輝く髪。
彼そのものを表すかのように、それはとてもきれいで。

「元気にしているか?

「はい。陛下もお元気そうで」

なんだか親戚の叔父さんに会ったような、そんな雰囲気だなあ、とか思いながら答えを返す。
よかったよかった、そういいながら彼は楽しそうにうなずく。
そして、不意に表情をまじめなものに変えて、こちらをまっすぐに見つめてきた。



思わず背筋が伸びるような、厳格な声。
金色の髪を持ち、国そのものを背負うかのように蒼色を身にまとうその姿は、
まさに、君臨者。

「おまえが国の力を借りたくはないと、そう思っているのは知っている」

ジェイドさんが告げたのだろう。
彼は微動だにしないけれど。

「しかしな、おまえが持ちうる薬学に関する知識。それは他の何にも代え難い」

ルークが、イオンが、ティアがうなずくのが見えた。
みとめてもらえるのは、本当にうれしい。

「俺はこの国の王だ」

不意に彼は述べる。

「お前が望むならば研究所でも研究資金でも何でも与えてやることができる」

「国ではなく、ピオニーという一人の人間から、お前に与えてやろう」

「お前は、何がほしい?」

手を、さしのべられて、問われた。
まっすぐな瞳は何かを望むように。

「私は___」

立派な研究所も資金も、とても魅力的ではあるけれど。

「なにも、いりません」

きっとそれらは私には過ぎたもの。
陛下の瞳が楽しそうにゆがめられて。

「いくら陛下個人からだと言われても、きっと周りはそうは見ない」

王様の持ちうるお金は元をたどれば民のもの。
それを使えるのは王様だけれど、個人としては使ってはいけない。

「だって、あなたは王様だから」

あなたの持ちうる地位は、権力は、それだけの意味がある。
にい、とそれはそれは満足そうに陛下は口角をあげる。
それに私はすでにもらっている。

「ピオニー陛下」

私の言葉を、先を促すように、陛下は首を傾げる。
年に似合わない幼い仕草に思わず笑いが漏れた。

「あなたの名前で十分です」

ピオニー・ウパラ・マルクト9世
その名前はキムラスカのお姫様のものと同様に、幾度も私を助けてくれた。
私の持ちうる最大にして最強の武器たち。
陛下は少しだけ目を細めて満足そうに笑った。

「おまえを守ってくれているならばなによりだ」

くしゃり、少しだけ乱暴になでられた髪の毛。
でも、込められる温もりは間違いなく本物で。
少し乱れた髪の下、あふれる笑みをそのままに、もう一度感謝の言葉を告げた。




















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