ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 55
シンクをひっぱたいて。
そうしてようやっと彼は私の手を信じてくれた。
けれども今はそれよりも___
「時間がありません」
ジェイドさんの焦った声。
「消しちゃった、ごめんね」
謝る気が感じられないシンクの言葉。
けれども彼にかまってる暇はない、とばかりにジェイドさんは指示を出す。
それに従ってルークが、ティアが譜陣を描き出していく。
それをただ、見守る。
逃げないように、とつないだ手はしばしの攻防の末、握ったままで許されて。
「シンク。」
「・・・なにさ」
小さく呼べばちゃんと帰ってくる返事に本当にほっとした。
ちらちらと横から視線を感じてそちらを見れば、イオンがにっこにこの笑顔でシンクを眺めていて。
目が合えばイオンは小さく”お兄ちゃん、”とつぶやいていた。
アニスは見事に仮面のないシンクをガン見している。
「うん。やっぱり違う」
小さくつぶやかれたアニスの言葉にシンクがじろり、彼女を見る。
「全く違うよ、イオン様とシンク」
あっさり、彼女はそれこそ真実だと言わんばかりに述べる。
「だからなにさ」
いらだったように声をあらげるシンクにも物怖じせずアニスは続けた。
「シンクはシンクだよ」
それだけ言って、アニスはできあがった譜陣へと目を向けて。
言われるだけ言われたシンクは困ったように眉を潜めてため息を一つ。
でもその表情は泣きそうにみえた。
シンク、これから知っていけばいいよ。
あなたはあなただって、いうことを。
無事にできあがった譜陣。
それを前にしてルークはぐらり、姿勢を崩す。
うめき声とともに倒れるルーク。
どうやらいつもの頭痛が発病したようで。
あわてて近づいたティアが、なぜか光った。
_ _
ティアの声で響く、知らない人のもの。
彼は自らをローレライと名乗って。
ルークが自分の完全同意体だと述べた。
新たに知らされた事実にルークが驚き、ジェイドがなるほどとうなずく。
そして、彼、ローレライは私をみて、ふわり、わらった。
_預言をもたぬ、迷い子よ_
朗々と、声は紡がれる。
「迷い子・・・?」
思わず問い返せば、さらに笑みは深くなる。
_迷い子よ、そなたが持つ記憶を、どうか実現させぬように。_
答えは返ってこず、ただ、真実を告げるように。
_どうか、これからも導いてほしい_
柔らかな声。
ずっと聞いていたくなるような、言葉。
ティアの口から漏れるそれは、ひどく甘味的で。
それが告げる意味を理解することはできない。
「ローレライ、」
私の呼びかけに、彼はただ、笑む。
「私は、私が思う通りにしか動けない。それでも、いいの?」
その言葉に彼は鮮やかに笑ってうなずいた。
それに、涙がでそうになるくらい、ほっとした。
ずっと、肯定の言葉を望んでいたの。
_迷い子よ、どうか、未来を__、_
消えていく声とともに、がくり、崩れ落ちたティアの体。
それをあわててルークが支えて。
それに近づいて、そっとティアに触れる。
「ティア、痛いところとかは?大丈夫?」
私の言葉に彼女は大丈夫だとうなずいて。
ルークが、心配だと告げるが彼女は気丈に振る舞うわけで。
とりあえず脱出が先だとあわててアルビオールに乗り、地上を目指す。
「ティアの体が心配です。一度医者に見せた方がいいでしょう」
ジェイドさんの一声で次の目的地はベルケンドに決まった。
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