ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 62











明日はアブソードゲートへと向かう。
ネフリーが手配してくれた高級ホテルにて、皆思い思いに夜を過ごしていた。



シンクと二人、ロビーでぼおっと火に当たっていれば突如後ろに現れたジェイドさん。
横のシンクは気がついていたようでどことなくいやそうにそちらを見る。

「少し話ませんか?」

相変わらずの疑問文ではない疑問文。
NOを許さない笑顔。
それに対して乾いた笑いを返すことしかできなかった。

「・・・今は僕と話してるんだけど?」

手を捕まれて引っ張りあげられて。
足を踏み出すしかなくなったその瞬間、逆の手がシンクによって引かれた。
驚いて振り向けばむすり、とさらに機嫌が悪そうになるシンクがいて。

「では、話し相手を紹介しましょう」

シンクのにらみなどなんのその、とばかりに満面の笑みを浮かべるジェイドさん。
あいている方の腕が持ち上げられて手のひらを上に。
紹介しましょう、の言葉の通りにその場所には一人の少年。
緑色の髪。
緩やかな衣服。
それはそれは満面の笑みのイオンがそこにいて。

「シンク、僕とお話してください!」

とてもとても楽しそうにそうのベた。



とんでもない顔をしているシンクをそのままにジェイドさんに手を引かれて。
抵抗することなくついていけば、雪がシンシンと降り続ける公園にたどり着く。
屋根のあるベンチへと導かれて白い息を吐きながらも腰を落ち着けた。

「私は正直複雑ですよ」

目の前にそっとしゃがみ込まれる。
それはたとえるならばお姫様に忠誠を誓う騎士のようで。
・・・自分で言ったけれどこの人にはとりあえずにあわない。
手を取られて、こつり、ジェイドさんのおでこに触れる。
願うように懇願するように、彼はつぶやいた。

「確かに身を守れるすべを持たないあなたをつれていくことはできないといいました」

紡がれる言葉は優しく胸に落ちていく。

「あなたをおいていくのは確かに苦しい。私のいないところでまたいなくなるなど・・・」

ぽつりぽつり、

「それでも、あなたが望んだならば私が守ろうとは思っていたんですよ」

かすかに笑う気配。
困ったように、寂しそうに。
握られていた手の圧迫が増す。

「私ではない男に守らせるなんてね。とても屈辱的です」

だからこそ、彼の本音だと、わかってしまって。
愛しい
愛しい
愛しい
不器用で、どうしようもなく優しくて、
うそつきで、どうしようもなく悲しい人。
あふれる想いは、形となる。
そっと、あいている方の手でジェイドさんのきれいな髪にふれる。
知ってますよ、ジェイドさん。
あなたの体、すべてはあの国のために、否、あの王座に座る君臨者のためだけにある。
口ではどんなことを言おうとも、この人は陛下を捨てることは出来ない。
この人の中でほかと比べられない位置に彼はいるから。
たとえ私が今にも死にそうでも、陛下がジェイドさんを呼べばきっと彼の元へ行く。
きっと、この人はいままでもこれから先も、一番は陛下で。
それ以外は二番以下。

でも、そんなあなたが、私は____

「大事なものを見失わない、そんなジェイドさんがいいです。私はそんなジェイドさんが好きです」

ぽろり、簡単にこぼれ落ちた言葉。
それに彼は少しだけ目を見開く。
その表情がおもしろくて、愛しくて、自然にこぼれ出す笑み。
取られていた手を取り戻して、彼の髪をなでていた手も、彼の頬に。
両手でジェイドさんの顔をつかんで至近距離でその赤い瞳を見つめる。
きれいな、紅色。
私の好きな色。

「なにがあっても、たとえあなたは私が死にそうでも、陛下を優先するでしょう?」

少しだけ後ろめたいとでも言うように紅がさまよう。

「でも、そんなジェイドさんがいいです」

「優しくて、賢くて、強くて、なのに意地悪な」

紅の色が、まっすぐに私をみた。

それが___

「私が好きなジェイドさんです」

彼は、ふわりと、泣きそうに笑った。

「そうですか。私が好きですか」

立ち上がったジェイドさん。
先ほどは見下ろしていたのに、今度は見上げなくてはならなくて。
手持ちぶさたになった手が、優しく取られて、握られる。
じわり、広がる熱。

「とても、うれしいですよ」

本当に、心の底からうれしいと、そう言わんばかりの笑み。
初めて、にも近いその表情に、じわじわと顔に熱が上がっていく。



呼ばれた名前。
甘く、あまく、とろけるように、あまやかすような声色。
体中が、熱を、帯びる。
思わず視線を落とせばとがめるように再度名前を呼ばれた。







何度も何度も、飽きないのか、というくらいに名前を呼ばれまくって。
おずおずと仕方なしに顔を上げる。
そうすれば優しい眼差しが落とされて



そ、っと壊れものを扱うかのように慎重な手つきで、彼は私を抱きしめた。
外の冷たい空気で冷やされたからだがじわり、温もりに包まれて。
耳が、彼の鼓動をとらえる。

「私もが好きですよ」

甘く甘く、心臓がばくばくと激しく音を立てる。
痛いくらいに、高鳴る鼓動が、私を包む。
愛しい、愛しい、愛しい。
きっと私の想いは正しく彼に伝わっていないのだろう。
ぼんやりと想いながらも、ぐ、っと手をのばす。
好き、大好きです、ジェイドさん。

「ですが、あなたを守れない___」

小さな独り言、それを聞かないふりをして、縋るように抱きしめ返す。
私を守れないと、正直に述べるあなたが、誰よりも、愛しい。
















※※※
ジェイド→が好き。でも一番はピオニー。
何かあったとき、優先するのはピオニー、強いては彼の守る国。
なのでたとえが死ぬ間際だろうとなんだろうとを優先することはない。

→ジェイドが自分を好きだというのはどういう意味なのかはかりかねている。
でもはジェイドがちゃんと恋愛の意味で好き。陛下を優先する、そんなジェイドがさらに好き。

若干すれ違い続ける、なあ・・・。








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