ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 63









世界が、揺れて、足場が、ぐらりと崩れた。

!!」

私を呼ぶ声。
けれども呼ぶみんなも散り散りになって落ちていく。
それでも、必死に伸ばした手はしっかりとシンクに捕まれた。
ぐ、っと引き寄せられて私よりもほんの少しだけ大きいからだにだきとめられる。

「僕から離れないでよ!」

今のはどう考えても不可抗力だろう。
心臓がばくばくと音を立てているせいで反論ができないが心の中でつぶやく。
どうやら下に落ちきったようで。
力の入らないままシンクに地面に落とされた。
痛い・・・。
あたりにシン、と静寂が広がる。
みんなは無事だろうか。
あたりを見渡せど、誰の姿も見えず。
一つ、ため息をはく。

「あいつらがそんなに簡単にくたばるわけないでしょ」

そっけないシンクの言葉に慰められてゆっくりとふるえる足を立ち上がらせる。

「どうする?」

先に進むか、みんなを待つか。
シンクの問いはなにがあろうと私の意志を尊重する姿勢を見せてくれて。

「・・・進もう、シンク」

立ち上がった足はもうふるえていない。
だから、大丈夫。
いつからか習慣になった。
シンクが手を出せば、つなごうという合図。
守ってあげるから、そばにいて、と願うように。
手を伸ばせば、つないでくれるようになった。
どこにも行かないでほしいから、ここにいていいからと許すように。

一歩、進む。
歩む。
あの人の元へ。
大事な仲間にとって、師匠で、兄で、従者で、
この子にとって、かつての道を示す人。

とても強くて優しくて、誰よりも変化を望んだあなたに、決着をつけに。



「その女に解されたのか」

響く旋律の元に、この人はいた。
パイプオルガンから視線をあげもせずに、こちらに背を向けたまま。
なめられているのか、まあそうなのだろうけど。
どうやらほかのみんなはまだここにたどり着いてはいないようで。
まさに私とシンク、ヴァンの三人だけだ。

「僕がほしいって、いわれちゃったからね」

私がシンクに言い続けた言葉はちゃんと彼に届いたようで。
小さく笑みが漏れそうになる。

「僕のお姉ちゃんを、傷つけさせはしないよ」

シンクは簡潔に述べて、笑う。
しっかりと私をうしろにかばって、だ。
決して向けられることのない視線。
それはまるで相入れることなどないと主張するようで。

「まあいい」

言葉少なにヴァンは話す。
彼が求める、預言のない世界。
それは確かに理想的で。
でも、その方法は、だめだよ。
預言にないレプリカを作り上げることで、預言からはずすだなんて。
それはあまりにも極論すぎる。
でも、私の言葉は、彼には決して届かない。

「ヴァン」

名前を呼べどこちらをむくことはない。
シンクは私をちらりと見て、また彼を視界に入れる。

「私は、それ以外がいい」

私の言葉にくつり、一つだけ笑いがこぼされて。

「預言は、少しの歪みなど簡単に飲み込む。___おまえごときになにができる」

ゆるり、ようやっとこちらをみた彼の瞳には、暗く黒い闇が横たわる。

「ばか、さがれ!」

シンクが私を抱えてとびすさったと同時に、今までいた場所がえぐられる。
そのまま後ろに下げられてシンクが、構えた。
向けられるヴァンの視線に、背筋が凍る。
小さくふるえが走る。
体がこわばる。
と、

!シンク!___ヴァン!!!」

響く、ルークの、声。
聖なる、焔の、光
駆けつけてくる色とりどりの仲間たち。
かけてきた彼らが私とシンクの前に割り込む。

「遅くなってごめん」

ルークが

「このばか、二人だけで行くなよ」

ガイが

「お願いだから先走らないで」

ティアが

「怪我はありません?」

ナタリアが

「よく耐えた」

クレイが

「まったく、二人とも早いよ!」

アニスが

「お待たせしました」

ジェイドさんが
ヴァンとの間に壁を作るように、立った。
世界が、光を帯びた気がした。















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