ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 64
「なぜおまえがここにいる?」
ルークを否定する言葉。
「ここに来るのは、ルーク被験者だ。私の邪魔をするな、レプリカ風情が」
彼の存在を作り出した存在は、あっさりと彼を切り捨てる。
「だったら、なんで俺を作った・・・!俺は何のために生まれたんだ!」
ルークは、それに対して真剣に言葉を返して。
ただ、淡々と彼の師匠は言葉を紡ぐ。
レプリカ、によって狂っていく世界。
レプリカ、によって造り替えられていくであろう世界。
預言という麻薬を取り除くための劇薬が、レプリカ。
「レプリカ世界が劇薬ですか。・・・大した妄想力だ」
ジェイドさんが、言葉を吐き捨てる。
「確かに預言の言いなりのこの世界はゆがんでいるさ。だが、レプリカの世界っていうのも相当歪んでるぜ?」
ガイが、かすかに笑みを漏らしながら、答えて。
「その通りですわ。あなたがその軽挙妄動を慎まなければティアが苦しみます」
姫様が、ぐ、っと目つきを鋭くして話す。
「総長の妹でしょ?妹と闘うなんて・・・総長本気なの?!」
信じられない、信じたくない、と彼女は叫ぶ。
「メシュティアリカ私も残念なのだ。お前がユリアシティでおとなしくしていれば、そうすればおまえだけは助けてやれたものを」
妹を、愛しげな瞳で見つめながら、紡ぎだすのは絶望の言葉
「兄さんはレプリカ世界を作ろうとしているんでしょう?なら私を殺して私のレプリカを作ればいいわ」
その妹は諦めたようにただ、そう返して。
ちらり、ヴァンの視線がこちらに向く。
シンクを、私を瞳に移して、ひどく暗く彼は笑った。
「師匠___。いや、ヴァン!あなたが俺を認めなくても、俺は・・・」
ここにいるのはもう、たった一人、師匠だけを追い求めた幼子ではない。
「俺だ!!!」
自分の足で立ち、自分の頭で考える、一人の確かな少年。
シンクの後ろから、彼らを見ることしかできない。
シンクに守られながら、ただ拳を握りしめることしか許されない。
それでも、これは私が望んだ。
私がいない場所で、皆が、ただ苦しむのに何もできないのは嫌だから。
時折向けられる攻撃の手。
それはシンクによって防がれる。
私を守ってくれる大切な弟の存在は、仲間たちにとっても信頼に足る人物となれたようで。
「お前はこれからを知っているのに、それでもこの先の未来を望むのだな」
一瞬の隙。
目の前に迫ったヴァンが、私の目元に手を当てて、小さく耳元で呟いた。
「ごめんなさい、ヴァン。私は、これ以上の最善を知らない」
同じように小さな声で返せば、くつり、耳元で笑いの気配。
同時に腹に感じる大きな痛み。
見下ろすまでもなく体からあふれる紅に浸食されていく。
「!!」
皆の声。
目の前の男から引き離されて、痛みをこらえて瞳を開ければ泣きそうに、瞳を揺らす大事な弟。
ああ、泣かないで、お願い。
こんな顔をさせるために、一緒にいたいんじゃないんだよ。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだからね、シンク」
「ばか、しゃべらないで」
シンクの向こうから姫様が走り寄ってきて、ふわり、ぬくもりに包まれる。
回復術の効果は抜群。
でも、突然の痛みに対して私の体は強くはなくて。
ぎゅ、とシンクの胸元を握って、笑う。
シンク越しの向こう、
ルークの、剣が、ヴァンを、貫いたのが、みえた。
彼の人が、世界の隙間に、落ちていくのを見送って、
そして、
そのまま
意識は
混濁。
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