ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 69
皇帝陛下の御落胤。
突如持ち上がったそんな話に、グランコクマに動揺が走った。
ジェイドさんにガイ。
そしてその事務処理能力を買われこき使われるシンクも、その噂によって被害を被っていて。
といっても、それに一番関わりのあるはずのピオニー陛下はからからと笑うだけであったが。
私はといえば、相変わらず引きこもりの生活を過ごしているため、話は本当に”聞いただけ”なのだが。
だからこそ、今現在この状況があまり理解できていない。
私の手を引くツインテール。
黒髪は愉しそうに左右に揺れて、その足取りは軽い。
突如ジェイドさんの屋敷に現れた、仲間で友人でかわいい子は私の手をつかんで愉しそうに屋敷から連れ出した。
「ったら、せっかくすてきな町に住んでるのにもったいない!」
そんな言葉とともに。
そのまま手を引かれて回るのはグランコクマの大通り。
お洒落なお店が軒を連ね、歩くだけで気分が踊る。
「今日は特別にアニスちゃんが見繕ってあげる!」
「アニス、その服は、ちょっと・・・」
「いいからいいから!着てみてよ!」
かわいらしいワンピースを渡されて、控えめに断るが、ずずい、と笑顔で押し切られればどうしようもなく。
試着して見せればアニスの顔はさらに輝く。
「!すっごくかわいい!!大佐もきっとほめてくれるよ〜」
脱いだ服を棚に直そうとしていた手が、止まった。
「・・・ジェイドさん?」
あの人が?
私をほめてくれる?
「そうそう大佐!」
それはとても魅力的なものに聞こえて。
「・・・本当に?」
私の言葉にアニスはふわり、柔らかく笑った。
「うん。きっと、本当に」
年に似合わないその笑い方に、思わず彼女に手を伸ばす。
そうすれば、きょとん、と不思議そうにアニスは首を傾げて。
その表情に先ほどまでの色は、ない。
いつまでも、いつまでもこの子は、抜け出せないまま。
「じゃあ、私が今度は選ぶよ」
私の言葉にアニスは再び首を傾げて。
「イオンが好きそうな服、一緒に探そっか」
瞬時、真っ赤になる、顔。
かわいいかわいい、幼い友人。
でも、その表情はすぐに落ち込んだものに変わる。
「無駄、だよ。・・・だって、私はあの人を想うには___」
汚れすぎている
小さく、本当に小さくつぶやかれたそれ。
でも確かに聞こえた言葉。
黒髪にふれて、そっとなでる。
そうすれば彼女の瞳はそおっとこちらに向けられて。
「きっと、イオンは喜ぶよ」
自分のために着飾るアニスを
自分のために悩むアニスを
あの人は優しくて、強くて、そしてとてもしたたかだから。
だから、否定しないで、その想いを
「ね、アニス」
私の言葉に、ようやっと彼女は笑ってくれた。
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