ドリーム小説










魔法102












「教授は優しい人だから、突き放す理由はちゃんとあるの」

月明かりの下、廊下にあるいすに二人で座って。

「わかってる。私が邪魔になったんだったら、ちゃんとそう言ってくれる人だって。」

途切れることなく落ちていく滴をただ、眺める。

「だから、あの人が私を遠ざける理由は」

それに対して睦月君はなにをいうでもなく、聞くだけで。

「私を思っての行動なんだよ。」

ゆるゆると、視線をあげて彼をみた。

月が雲で隠れて、あたりは闇に包まれる。

「ねえ、睦月君」

呼べば彼は確かに私をみて。



「睦月君にとってこの世界は、なに?」



そしてようやっと彼は口を開いた。


「俺にとってこの世界は、ひどくどうでもいい場所、だよ。」


瞳に色はなく、ただ淡々と事実を述べるように。

「俺が大事にしていたものも、大切にしたいものも、何一つない。」

彼は続ける。

「ひどく空虚で無意味な世界」

微かに口角をあげて。

「俺はこの世界がどうなろうが、この世界になにが起ころうが、どうでもいい。」

あざけるように、

「ただ、無事にあの世界に帰れさえすれば、それだけで。」

彼は立ち上がりこちらに背を向けた。

「だからね、ちゃん。」

ゆっくりと振り向いたその瞳はまっすぐに私をつきさして。

「俺からすると、こんなくだらない世界で、たった一人の人物に執着する君が滑稽に見えるよ。」

そういって、笑う。

笑う、のに

「睦月君」

私の呼びかけに、彼は一歩距離をつめる。

「なあに?」

一歩、また一歩。

「滑稽だと、そういうわりには」

ざわり、風が吹く。

「言う割には?」

空気が動く。

「どうして」

とん、と顔の横に彼の手がおかれた。

「どうして?」

ざあ、と雲が、はれる。

月明かりが再び私たちを、照らす。



「どうしてそんなに羨ましそうなの?」


至近距離で見つめた彼の瞳はひどく揺れていた。




























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