ドリーム小説










魔法107






















年を、知ってしまった。

それはどうってことないことの、はずだった。

けれども、それは確かにきっかけになって。


手をのばしたいと、そう思ってしまったのだ。



あの柔らかな体を

あの穏やかな声を

あの暖かな笑顔を



手に入れてしまいたいと。






少なからず好かれている自信はあった。

しかしながらそれは、ただの親愛であると思っていた。

否、思い続けていたかったのに。


違うのだ。

私に向ける笑顔だけが、込められる感情が。



彼女の世界が広がり、私から離れていくことに対する焦燥感。

けれど、これから先の私を思えばそれは最善で。

だからこそ、あえて、今、手放そうと決心したのに。

彼女はいつだって私のところに戻ってくる。

私のそばにいようとする。

その暖かさに言いようのない喜びを感じ。

同時にどうしようもない焦りも抱き。


そして私だけにはほかと違う笑顔を向けてくるそれに、泣きたいくらいにうれしくなって。


そのたびに思い直すのだ。


私のこれからは、決して彼女のためにはあれないことを。

私の一生は、愛しい彼女が残したものを守るためだけに存在することを。




なれば、突き放さねば。

私から、遠ざけねば。




そう、思った故の行動だった。

突き放すたび彼女が泣きそうに表情を浮かべたところで、もう受け入れてやることなどできないのだから。



「僕たちが、を求めるよ」


ウィーズリーの双子であれば、なにがあっても彼女を守るだろう。

そう思えば手放す恐怖も少しは和らいで。


「私と同じ世界の人」


彼女と同じ立場の人間がいるということに、少なからず安堵を覚えて。

なれば、彼女はそのものとともにあればいい。


そうやって納得してしまおうとしたのに。





あの子をこの世界に連れてきたのは主たる帝王。

一生をかけて、忠誠を、この身を捧げる相手。


それでも、守りたいと。

腕の中に、あの子があるうちは、守らねばと。



「あの子が、大事?」


大事でないわけがない。

「俺はね、別になにがどうなろうが、全く興味ないんです。」

「でもね、あの子にこの世界で出会っちゃったから。」

「あの子が泣くのはみたくない」

私だって、見たくはない。

傷ついてほしくはないし、傷つかせたくもない。

「なあ、先生はあの子をどうしたいの?」

「どっちかにしてよ。うけいれるにしても、突き放すにしても。」

「俺がここで望まれているのは、あの英雄に関することだけ。」

「先生のことも、あのこのことも、今はなにも関係ない。」


言外に、込められる、意図。

今のところ外に漏らす気はないと。

帝王に少女の存在はばれていないのだと。


「どっちでもいいからさあ、早くちゃんを、自由にしてあげてよ。」




どっちでもいいとは、ひどく無責任な。


でも、その言葉に、その放り出されたような口調に。



手を伸ばすことを、許されたような気がして。





漆黒の髪。

いつもは一つにくくられたそれ。

軽く巻かれて柔らかく肩に落とされて。

ほとんどしない化粧が新鮮味を与えて、頬の赤さを色濃く見せる。

華奢な肩は大胆にも出され、丸みを帯びた体が女性らしさを醸し出す。

思っていた以上に柔らかそうなそれに、息をのむ。

瞳の黒と正反対の白い肌。

柔らかく落ちるスカートの陰がそれらをさらに強調させて



綺麗だと、思わせた。



「私は教授と一緒がいいんです。」

赤く染まった頬が

「教授が私を遠ざける理由が、私のためだというなれば」

微かに震える手のひらが

「私があなたから離れる必要が、どこにありますか?」

まっすぐに見つめてくる瞳が




「セブルスさん、私を側に置いてください。」




いつだって、私の意志を揺らがすのだ。


















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