ドリーム小説
魔法113
「ドラコの一番大事なものって、何ですか?」
私の質問にドラコは食事の手を止めて。
瞬時考えるように視線をさまよわせた。
「・・・第二の試練のことか。」
あっさりと言い当てられて小さく笑う。
「僕の大事なもの・・・」
うろり、迷うように彼は瞳を伏せて、困ったように黙り込む。
興味本位で聞いただけだったから、存外悩ませてしまったことに申し訳なくなる。
「考えつかなかったら、かまわないですよ。」
付け加えれば、今度は不機嫌そうに眉も潜められて。
「・・・家族」
ぽつり、それは小さな声でつぶやかれた言葉。
その単語がドラコらしくて。
「・・・おまえは、教授だろう。」
どことなく照れたような表情で、瞳はじとりと熱を持って。
彼は私に言葉を向ける。
それは疑問ではなく、ただ確かめるだけのように。
私もそれに対して笑顔を返す。
そうすればドラコはあきれたように表情を変えて。
口が開かれて何かの単語が発せられようと、した、のだけれど。
「そっか〜。マルフォイ君は家族が大事か〜。」
するり、どこからともなく現れた睦月君。
彼がにこやかに笑いながら会話に進入してきて。
びくり、ドラコの肩があがる。
私もびっくりした。
「おまえ、どこからっ!」
「ん?大広間の扉からきたよ。」
ドラコの荒々しい口調にあっけらかんと返す睦月君。
温度差に苦笑が漏れる。
「ちゃんは、もちろんあの人でしょう?」
きゃんきゃんと子犬のようにほえたてるドラコを見事にスルーして、今度はこちらに言葉をかける。
ちらり、教員席に座る黒い人をみやって、小さく笑ってみせる。
そうすれば睦月君はほほえましそうに笑って。
「そっかそっか。うまくいったようで何より」
「睦月君のおかげですよ。」
あのとき背中を押してくれたあなたがいたからこそ、私は一歩を踏み出せた。
あのとき私に笑ってくれたあなたがいたからこそ、私も笑顔をあの人に向けることができた。
「ありがとう」
困ったように、でもどことなくうれしそうに笑うその表情は、あの世界にいたときと何一つ変わらない色で。
「おまえはどうなんだ。」
会話を遮るように、むすりとしたドラコは問いかける。
と、睦月君はきょとん、とした表情を浮かべて。
「んー、そうだねえ・・・。」
ゆっくりと私とドラコを交互に見て。
ふんわり、先ほどの笑みは裏が見えない笑みに変わる。
「僕の一番大事なものは、」
柔らかな、穏やかな口調で。
でも、どこか冷たさを持つ言葉がその口から発せられる。
私たちと距離をとって。
「この世界には、いないかな。」
笑った表情は、やっぱり、今にも泣き出しそうだった。
この世界には、いない。
だって、いたのはあの世界。
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