ドリーム小説










魔法115













ハリーとセドリックが、最後の試練を受ける。

だからこそ早く競技場に行きたかったのに。

行く手を遮ったのは、睦月君で。

少しだけお話をしよう。

そう言われれば断ることなんか、できなくって。


皆が競技場に行ったから、ここにはだれもいない。

私と睦月君と。

二人で廊下のいすに腰掛ける。


「ねえちゃん」

「なに、睦月君」

向けられる視線は、いつもと同じ。

穏やかな色。

なのに、なぜかどことなく暗く見えて。

伸ばされた手を甘んじて受け入れて、目を細める。


「君は、どうしてあの手を拒んだの?」


突然もたらされる言葉は、理解が追いつかないもの。

いったい何のこと?そう問いかける前に、彼はまた口を開く。


「あのとき、あの暗闇で、どうしてあの手から逃げたの?」

頬に触れていた手が、じわり、痛みを生み出す。

立てられた爪が、ゆっくりと皮膚に衝撃を与えて。

「睦月くん、」

再度名前を呼ぶ。

彼の瞳はさらに細くなって。

「まだ、わかんない?」

疑問文。

けれど、頬の痛みは、増す。

「あのとき、君があの暗闇の中で、あの手を振り払ったその瞬間に、」


浮かび上がる暗闇。

恐ろしい光景。

逃げられないそれが、私を捕まえようとした、その瞬間。

教授の手に、すがった。


「あの手は、俺をつかんだんだ。」


頬に痛みと熱が広がる。


「なあ。あのとき、おまえがあの手に捕まっていれば、俺は今、ここにはいなかったんだ。」


やっぱり、そう思ってしまった。




_あなたは犠牲の上に生きている_



その言葉の意味を、今、はっきりと理解した。



「俺は、あの世界で、暖かい家族に囲まれて!今だって生きていたはずだったんだ!!」


燃え上がる怒りが、彼の瞳に宿る

隠しきれない衝動が、彼を駆り立てる


「俺はおまえの代わりにこの世界につれてこられて、それなのにおまえはこんなところで悠々と、過ごしてっ」

私が、この学校で危険から遠ざけられているあいだ、この人はきっとあの恐ろしい闇にとらわれていた。

「俺は生きるために必死だった。あいつの願いを叶えるために!」

それが、誰を示すのか、わからないほど無知ではない。

「俺がこの世界で存在し続けていくためには、何だってしたさ!」

異なる世界から人を呼び寄せられるほど強い力を持つ人なんて、ほとんどいない。

「あの世界に帰れるかもしれないと、期待しながら生きてきたさ!!」

私が保護されている間、この人は幾度となく恐怖におそわれて。



「でも、この赤く染まった手で、いったいどこに戻れると?」


ずっと燃え上がっていた炎が一瞬で収束するように、彼は小さな声でいって、笑った。


離された手を、思わずつかむ。

爪には赤い色。

きっと私の頬もひどいのだろう。

でもそんなことかまってられない。


「私が、なるから。」


紡ぐ、言葉。

伝える、想い。



私のせいでこの人の世界は、狂った。

私が原因で、この人の世界は違えた。



私に償えることなんて、たかがしれている。



「ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまってても、」



この人が望む世界につれていってあげる力なんてない。


「私はこの世界に落ちたこと、あの手をつかめたこと、後悔はしてないの。」


この人が望む願いを叶えてあげられる実力もない。


「あなたに罪悪感を覚えてても、この世界であの人に出会えたこと、すごくうれしく思ってる」



ごめんなさい。



でも、私にだってできることは、ある。




「私が、睦月君の帰る場所に、なるから。」



だから、お願い、お願い。


「あなたのつらさも全部、一緒に抱えるから、」


この世界を壊してしまわないで。


私を呼んだのは、睦月君を呼んだのは、闇の帝王。


だから、睦月君がそっち側だって、知ってるけれど。



「なにがあっても、私は受け入れるから。」


”闇の帝王”と一緒に、この世界を壊さないで。








「そっちじゃなくて、わたしに、もどっておいで」






最後に見えたのは、泣きそうな睦月君の表情。



聞こえたのは、何かがはじけるような、音

























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