ドリーム小説
魔法118
幾年も、この世界で過ごすうちに身につけた”あきらめる”という行為。
この場所につれてこられて、ただ生きることに必死だった。
あの優しい世界に、暖かい場所に、戻るためには生きるしかないと。
俺を連れてきたあいつは、手を貸せば元の世界に返してやると、そう言ったから。
言われたことを何でもした。
人を傷つけることも、たやすく行って。
人を殺めることだって、慣れてしまった。
幾度となく染まった手は、もう元の色がわからないくらいになって。
そして、気づく。
この手では戻れる場所など有りはしないのだと。
奴も、俺を元の世界に帰す気など、さらさらないのだと。
あいつが俺を望んだ理由は、何となくわかっていた。
俺が扱う魔法は驚くほど強力で、時にはあいつを凌ぐほどだったから。
でも一番は”未来”とされる世界をみること。
あんな也をして予言という不確かなものを信じるあいつは、それ以上に確かな俺の言葉を求めた。
見る未来に興味も持てなかった俺は、あいつが望むままに未来を伝えて。
ちゃんとした動けるからだをもてないあいつが、それを取り戻すための手伝いをした。
だって、この世界の未来など、どうでもよかったから。
今回もその一環として動いていた。
ゴブレットにハリーポッターの名前を入れるのを手伝い、試験の数々ではクリアできるように手を加え、あいつの場所に届ける、その手はずだった。
でも、唯一の例外があった。
俺のみた世界には、彼女はいなかった。
たった一つのイレギュラー。
あの世界でのクラスメイトで顔見知り。
それだけの関係。
それだけの関係だったのに、彼女をみた瞬間泣きたくなった。
薄れかけていた記憶がじわじわと蘇り、懐かしい家族の感覚が沸き上がり。
そして、知った。
俺は彼女の代わりに捕まったのだと。
彼女を、憎んでなんかいなかった。
否、憎みたくはなかった。
彼女だって、俺と同じで突然この世界に放り出された。
俺とは違って庇護されて過ごしていたけれど、魔法が効かないため言語で不自由していて。
俺はたいていのことは魔法で何とかなったから、自分を自分で守ることだってできた。
確かに俺は彼女の代わりにこの世界に捕まった。
彼女が捕まっていれば俺は今でもあの世界で温もりに包まれて暮らしていたんだろう。
何度も思いはしたけれど。
でも、彼女が俺を望んだ瞬間、この子を守るために生きてもいいかと、そう思えたんだ。
俺に手を伸ばして、もどっておいでとささやいて。
この世界で、俺という存在が必要だと、全身で示したんだ。
俺が自分の身代わりになったこと、謝罪はしても、自分がこの世界にきたこと、後悔などしていないと。
なんて自分勝手な言葉たち。
でも、そんなに幸せそうな顔で言われたら、毒気も抜かれて。
全部を受け入れると。
この赤く染まった手のひらだって、受け入れてくれると。
つらさも一緒に抱え込むと
このやるせない感情さえも一緒に抱えてくれると。
自分も巻き込まれた被害者なのに、自分のことは二の次で。
そんな彼女になら、すべてを委ねてもいいかと、そう思えたんだ。
「久しぶり、ヴォル。」
薄暗い墓地。
捕らえられたポッターを尻目に、軽く手を挙げて。
ポッターの瞳が驚愕に見開かれるのを視界の端で認識しながらも笑ってみせた。
ごめんな、ポッター。
正直俺はお前のことなんかどうでもいいんだ。
これからのことだって、知っているけれど、
お前が生きようが、死のうが、俺には何の影響もないんだ。
ただ、瞼の裏で、あの子が笑うから。
「昴」
ひどい濁声。
けれど聞き慣れたそれ。
俺をこの世界に呼んだ張本人は俺の名前を呼ぶことですべての意志を伝えようとする。
そんな無茶な、と思わなくもないがやっぱりそれにも慣れがあるもので。
「はいはい。あんたが危惧してた異世界の女の子はさっき死の呪文を受けてたでしょうが。」
死の呪文を受けるはずだったディゴリー。
それをかばった。
確かにその呪文はへと吸い込まれた。
「っ、そんな・・・」
ポッターのつぶやきが地面に落ちる。
くつくつと愉しそうに声を上げるのはヴォルで。
「さあ、復活の時だ。」
復活するのに敵の血液が必要とか意味が分からない。
そう思いながらも痛みから叫ぶポッターをただ眺める。
俺が思うに、あいつは魔法がきかない訳じゃない。
膨大な魔力を持つ俺とは正反対に全く魔力を持たずこの世界にきただけで。
だからこそ魔法は使えず、魔法をかけられても無反応でいられた。
けれど、そのかけられた魔法は少なからずあいつに影響を与えているのだと思う。
現に、今、あいつは微かではあれど魔力を持っている。
おそらく向けられた魔力を体が吸収しているんだろう。
向けられた魔力が大きければ大きいほど、あいつに蓄積される魔力は増えて。
そして今回。
ヴォルの大きな魔力を、あいつは受けた。
つまり、なにが言いたいかというと、
あいつはこれから先魔法が使えるようになるはず。
けれど、先ほど呪文を受けたが意識を落とすのもみているわけで。
若干の不安を感じてもいる。
もしも、があの呪文を正しく身に受けていたならば。
また闇の中に落ちていく
じわり、この世界で感じることのなかった不安が、よぎった。
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