ドリーム小説






 魔法12




ふわふわ
  
  ふわふわ

あたたかい

柔らかな温もりを感じる

ふわりと浮き上がった意識の端。
目の端に映ったのは黒いもの。

『・・・・あ、さ・・・?』
「お目覚めかね?Ms.。」

きりのかかったような頭で、名前を呼ばれたことを微かに感じ音の発信源を見る。
『・・・?・・・』
黒い人が目の前にいた。
しかも至近距離で。

(え、え、と・・・?)
この状態を理解できるほど、私の目は覚めていない。
はあ、と大きめの溜息がこぼされる。
「いい加減離していただきたいのだがね?」

(い、いかげん?・・・はなす・・・?・・・!)

言葉の意味を必死で拾う最中に、気づいた。
右手が何かを掴んで離さない。
それは、布のような感触。

『っつ!』

きょーじゅのローブだと気づいた瞬間私はその手を反射的に離し体をのけぞらす。
『わっ!』
と、のけぞった先に地面はなく、がくんと体が落ちる感覚になる。
「!」

ぐいっ

『っ・・・。』
落ちそうになった体が逆からの力に支えられる。
引っ張られ、落ち着いた場所は薬草の匂いが濃く染み付いた、腕の中。
ほっとした溜息をつくと、そっと顔を上げた。
そこには不機嫌そうな顔をしたきょーじゅがいて。
けどもその表情はどこか諦めたようなもので。

。我輩は今日から授業などがあり忙しい。以前言ったように大人しくしていろ。」

相変わらず理解が追い付いていない私をきょーじゅはじとりとした目で見ると、
手を離し、日本語で話しだした。
『我輩は、これから授業だおとなしくしていろ。』
『了解、です。』




きょーじゅがいない。
暇だ。
かといって、外にでるのも禁止。

寝ようかとも思ったけど、またあの夢を見るのは、怖くて。

しかたないから、英和辞典片手にきょーじゅの本棚にある本を眺めることにした。


暗号のような文字の羅列を見ている。
思い出すのは元の世界。

一番上の楽しいお兄ちゃん、二番目の優しいお兄ちゃん、いつまでも新婚のように仲のよい両親。
他の家と別段違うところのない、普通の家庭。
もちろん私自身何も別段変わったところのない人間で。
なのにどうして
(どうして私はこんなところにいる?)

文字を追うことも無く、ただ考える。
ここに来たときから変わらない、この世界に来た理由。
ヒントはあの夢。
黒い世界。
追いかけてくるもの。
つかまらぬように必死で逃げたこと。

けれどそれらは核心には程遠く。


どうしようもないのだと絶望にたどり着く。


(ひとりは、やだ・・・。)

どうしてもそれらのことを考えてしまうから。

(早く帰ってきて、きょーじゅ。)


だって、


このへやでひとりでいるのはさみしすぎるのです。



出て行ったばかりの扉を眺めて。











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