ドリーム小説
魔法131
「あ、それから先生。」
に近づきすぎだったそいつを無言で引きはがせば、にこり、相変わらずの笑み。
無言で先を促せば、男は柔らかに口を開く。
「さっきも言ったとおり、には魔法が効かないよ。」
まるですべてを知っている、とでもいうように。
まるですべてを理解している、とでもいうように。
「だから、開心術は、驚異じゃない」
私が彼女に告げるべきではないことを、言葉にしたいと思っていることを、わかっているかのように。
「だから、ね、先生」
罪の証が、じわり、熱を帯びる。
「は、この世界で唯一、先生のそばに居続けることができる子だよ。」
小さくローブが引かれる感覚。
ゆっくりと見下ろせば、こちらを見てくるまっすぐな瞳。
「教授が、私に話してもいいって、そう思うことがあるんでしたら。
私はいつだって、どこでだって、どんな内容にだって、耳を傾けます。」
がそういってふわりとほほえむ。
睦月がへらり、手を振って部屋を出ていく。
この少女の心が暴かれることは、ない。
しかしながらそれは絶対とはいえない。
なれば、この少女に話すことなどない。
そう、わかってはいるけれど。
これから先自分が起こす行動を
これから先起こるであろう騒動を
この少女には、疑ってほしくはなくて。
甘くなった、と思う。
私にとって家族であり友人であり兄弟であり、大好きだった彼女。
私のすべてであり世界であり、大切であった彼女。
彼女に振り向いてほしいがために
彼女を手に入れたいがために、
選択したのはひどく愚かな方法。
私の言葉にただ静かに涙を流した彼女に、もう二度と声は届かないとどこかで理解していたけれど。
それでも、手にはいると思っていた。
それでも、手にいれられると思っていた。
いつか、彼女は私を求めて私のそばにくると
いつか、彼女は目を覚まして私に笑いかけてくれるのだと
信じていたかった。
けれど、その代償は大きすぎて
彼女は、この世界から姿を消した。
彼女が命を懸けて守った少年を
彼女と同じ瞳を持つ少年を
守ることが、償いであると。
彼女を偲ばせる瞳と、憎しみしか生み出さない容姿と。
それを生かすことが自分への戒めであると。
「___」
長い長い、思考の末。
今想う、少女の名を呼ぶ。
そうすれば柔らかな笑みが返されて。
ゆっくりと手を引いてソファへと誘導。
杖を振って、紅茶を出して。
「永く、どうしようもなく情けない我輩の話を、___聞く時間はあるかね?」
彼女はもちろん、とうなずいた。
back/
next
戻る