ドリーム小説
魔法134
「ヴォルはちゃんを探してたんだ。」
それは、唐突な言葉。
怪訝そうな表情を浮かべた教授にへらり、睦月君が笑う。
「あいつが昔読んだ文献にあったらしいんだ。外からの人間は異常な力を持つと。だからこそあいつはそれを求めた。」
強い魔力と、能力をみる人間を。
「はじめにちゃんを呼んで。でもそれが失敗して。代わりに俺を手に入れた。」
その言葉に思わずうつむけば、睦月君がぽん、と頭を撫でてくれる。
「俺は杖がなくても魔法がつかえて、さらにはその力がとても強い。さらには未来を視れる。」
先を見通すという力。
それは敵となれば恐怖でしかない。
「だからこそ、捕らえきれなかったちゃんをも求めた。」
私が持つ力がなにか、それは知らなかっただろうけれど。
「手に入れられるなら手に入れて。もし妨げになるようならば、殺せ、と。」
そしてその人は、後者を選んだのだ。
ふるり、体がふるえた。
あのときの光が、体がどんどん眠っていくのが、思い起こされて。
横に立つ教授のローブをそっと握った。
「今、ヴォルはちゃんが生きているのか、いないのか、わかってはいないと思う。」
睦月君が困ったように眉を寄せた。
それだけで言いたいことがわかってしまって。
ゆっくりと、教授を見上げれば、黒い二つの光が私を見下ろす。
「、距離を__」
「嫌です。」
大好きな教授の言葉を遮る。
まっすぐに見つめ直すその瞳。
怒ったような、眉間のしわは、私を想ってくれているから。
「せっかく、私をみてもらえたのに。離れたくなんかないです」
帝王の膝元で任務をこなすこの人にとって、私はじゃまで、弱点でしかなくて。
それをわからないほど幼くはない。
でも、簡単に受け入れられるほど、大人ではないの。
大きなため息。
でも、ひるむわけにはいかない。
「危険だと理解してます」
それでも、
「あなたを失う方が、あなたのそばに入れないことの方が、私にとっては恐怖だわ。」
必死に頬を引き上げて、笑う。
ちゃんと笑顔に見えていればいいな。
見つめあう瞳。
膠着する空気に、亀裂を入れたのは睦月君。
「俺の提案としては、騎士団本部っすね。」
突然の聞きなれない言葉。
ゆるり、彼に目を向ければにこにこと笑う顔。
「休みの間はそこに。学校が始まってからは、先生がいるこの場所がおそらく一番安全だ。」
しかめっ面をやめない教授。
にこにこと笑いながら話を続ける睦月君。
そして、理解が追いつかない私。
「・・・。我輩は非常に不本意ではある。」
言葉を濁すような、そんな珍しい口調で教授は口を開いた。
「非常に不本意ではある、が」
さまよっていた視線が私を見つけた瞬間、和らいだ。
「迎えに行くまでそこで待っていろ。」
嫌だ、と告げた言葉を、この人はちゃんと受け入れてくれて。
私を迎えにくると、約束してくれた。
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