ドリーム小説










魔法143
















たゆたう、世界。

夢の、世界。

誰の熱をも、感じられない残酷な世界___




「母様、シリウス兄様は、」


レギュラスの母に向けた問いかけは、彼女の怒鳴り声で消え去った。

レギュラスは唇をかみしめて、手を強く握って。

こらえるようにうつむいて、足早に部屋へと戻っていく。

そんな背中を見送るわけもなくて、彼について部屋に入る。

ぎゅう、と体を抱きしめてまるまるレギュラスがその部屋にはいて。

そっと彼のそばにたつ。

ゆっくりと頭に手を伸ばしたけれど、手は触れることはなく。

温もりは、感じない。

それでも、何かを感じたのか、レギュラスは顔を上げて。


「・・・?」

小さくつぶやかれた名前。

この世界で言えば、およそ一年前。

数日だけ一緒に過ごした。


それだけの関係。

でも彼は、私のなまえを確かに口にした。



すがるように呼ぶ声に

痛みをこらえるような瞳に



この子を、助けたい、と思った。




見開かれた瞳には、驚きの色。

かみしめていた唇には少しの赤。


「レギュラス君」

初めて呼んだ。

少年の名前。

でも、呼んだことで彼のなか、何かが切れたように、ぽろり、滴が落ちた。


「泣かないで、レギュラス君」


君が泣いても、私はその涙を拭ってはあげられない。

君の体を抱きしめて、慰めてあげることもできない。

ぼろぼろ、ぼろぼろ、星が消えゆくように、きらきらと光が落ちる。

っ、」

伸ばされた手は、私をすり抜けて地面へ落ちる。

それでもこちらにすがるように彼は手を伸ばし続けて。


彼の手が、つかめないのが、つらい。


、っ、どし、て、」

紡がれる言葉は、混じる嗚咽で濁っていく。

それでも、先を促せば、彼は叫ぶように言葉を発した。

「兄様、っ、スリザリンじゃ、ないのっ」

ああ、わかった。

彼の嘆きの理由も、あの母の神経質な叫びも。



ドラコと同じ、純血思想に生きる家の、宿命のように。



自由を求めたシリウスは、獅子の寮に選ばれて。

それを裏切りととった彼の家族は、次の子へと期待を向ける。


「っ、僕は兄様じゃ、ないっ」


その重さに耐えられないと、レギュラスは叫ぶ。

まだ11にもならない少年に、突如として向けられた期待。


今にも押しつぶされそうな小さな体を、


私はやっぱり抱きしめられない。




















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