ドリーム小説
魔法148
柔らかなまでに、時は残酷で。
優しいほどに、世界は過酷で
変えられるものなんて、何もないと思っていた。
最後の記憶は、レギュラスにだきしめられたこと。
温もりも何もなく、ただ、抱きしめられた。
そして、私はまたいつもの眠りに引きずられて___
「兄さんはもう戻ってこない。」
久しぶりにみたレギュラスは、私をみてそう言った。
「家を出たんだ。」
感情も何も灯らない、凍った瞳で。
「家の中を、壊すだけ壊して」
皮肉気にあげられた口角。
「この家から逃げたんだ」
すべてをあきらめたような口調。
全部が、レギュラスを表す言葉としては似合わない。
ふよふよと、漂って彼の目の前に。
まっすぐに向けられる視線を、見つめ返して。
相変わらずさわれない手を、その頬にのばす。
まずは、
「久しぶり、レギュラス君」
いつの間にか背も伸びて、声も低くなった。
この間は失態を見せてしまって、ごめんね。
「またあえてうれしい」
いつも、眠りにつくとき思うこと。
帰りたいけれど、この子をこのままおいていくのはイヤだと。
私の言葉に、レギュラス君はようやっと曇りない笑顔をくれた。
「ねえ、レギュラス君」
まだまだ幼いこの子どもを。
「泣いてよ」
ぽつり、落とした言葉に、この子は目を見開く。
それははじめ会った頃と変わらない表情で。
「無理して笑うより、泣いてるレギュラス君の方が、私は好き」
継ぎ足すように言えば、くしゃり、レギュラスの表情は、ゆがむ。
「は僕を甘やかすのが上手だね」
ぽとり、こぼれた滴を拭うこともなく。
昔のように泣き叫ぶことなく涙を落とすその姿に胸が締め付けられて。
「僕を連れていってはくれなかった」
ぽつり、落とされたそれが、この子の本音。
家族の中、誰もが疎ましがったあの人を、誰よりも求めた弟。
どうして、あの人はこの子に気づいてくれなかったのか。
どうして、あの人はこの子をおいていったのか。
たぶんシリウスは、弟を少なからず思った結果。
純血の思想を持つ彼を、巻き込むわけにはいかないと。
それは、彼の中の正しさで。
それは、彼の中の最大の過ち。
家を守るために、自分を偽る弟に、気がつけなかった兄の罪。
抱きしめられない腕で、体で、精一杯君を包み込む。
「も、僕をおいていくんでしょう?」
小さく問われたそれに、私は答えることができなくて。
彼の腕に刻まれた、帝王の印を、そっと見ないふりをした
私は、やっぱり、シリウスを好きにはなれない。
教授を、大好きな人をいじめるひどい人。
でも今はそれだけじゃなくて。
レギュラスを、自分の弟を、おいて逃げた人なんて。
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