ドリーム小説
魔法159
レギュラスが目を覚ましたのは私が連れて帰ってきてちょうど一週間たったときだった。
こんこんと、静かに眠り続ける彼の横。
ずうっとそこに居座るクリーチャー。
それを遠巻きに眺めるシリウス。
そんな彼らを見守る私がいる空間での出来事。
「・・・、」
ぽつり、静かな空間に空気に溶かすかのようにつぶやかれた名前。
一番に反応したのはすぐそばにいたクリーチャー。
ぐぐ、っと寝ているレギュラスを上からのぞき込んで。
それから私が、呼ばれたままに近寄って。
そおっと、その頬に、ふれた。
低い体温を感じるか、感じないか。
その瀬戸際で、ゆるり、その瞳は開かれて。
ゆっくりと瞬きをする。
ピントを合わせるように、私を見て、そして小さく息を吐いた。
「レギュラス君」
再び閉じていく瞳を止めるように名前を呼べば彼の瞳は動きを止めて。
そうしてようやっと、ちゃんと私を、その瞳に、うつした。
「・・・・・・?」
ずっと眠っていたから、だけではないかすれた声。
それでも確かに私は名前を呼ばれて。
「はい、なんですか、レギュラス君。」
あのころと同じ、お姉さんみたいに振る舞って。
ゆるゆると、彼の手が、私にのびた。
確かめるように頬に、ふれる前に一度ためらって。
壊れものを扱うかのごとく、そっと、ふれて。
彼の瞳に、薄い滴の幕がはる。
存在を確かめるみたいに何度も何度も私をなでる。
それを甘んじて受け入れて。
温もりにすがるように私もすりよって。
「ようやっと、さわれた・・・」
つぶやかれた言葉はきっと無意識。
でも、その思いは私も一緒。
慰められなかったあのときを埋めるように。
手を伸ばされることを許された、今。
「」
こつり、おでこを重ね合わせて。
「」
するり、温もりを分かちあうように。
「っ、!」
重ねて呼ばれる名前を受け入れて、私も彼の名前を返して。
「はい、レギュラス君」
至近距離で目を合わせて、笑う。
肌に触れて、温もりを感じて。
瞳をあわせて、お互いを写しあって。
何度も何度も確かめるようにさわりあう。
潤んだ瞳の奥、私の姿。
確かに存在しているのだと、温もりが伝える。
起きあがったレギュラスがぎゅうぎゅうと私を抱きしめる。
私もそれに全力で返して。
と、
まどろんでいたその瞳が、ぱちり、現実を見たように明確な色を宿した。
ば、っと音がするくらい激しく引き離されて、見る見るうちにその顔色は青く変わっていく。
「もしかして、僕はを道連れにしてしまったんですか?」
おそれるようにふるえる体。
ああ、かわいいなあ。
そう思いながらあいた距離を再度つめて。
「ちがうよ、レギュラス君。」
あなたは、何にも悪くない。
「私がレギュラス君を道連れに、つれてきちゃったの。」
謝るのは、きっと私のほう。
あなたの時を、体の時間を、奪って。
あのころの姿のまま、この場所へつれてきてしまった。
きょとん、と瞳を瞬かせたレギュラス。
「クリーチャー・・・?」
彼はすぐそばにあった僕の名を呼び。
無言でその小さな僕を抱きしめた。
困惑の表情のままあたりを見渡し。
シリウスを瞳に写して固まって。
突然開かれた扉に目をやり、そこから姿を現した教授に口をぽかりとあけた。
「目覚めたか、レギュラス。」
低い愛しいバリトンボイス。
「セブルス、先輩・・・?」
ぽかんと口を開けたままつぶやいたのは確かにあのころの関係生のまま。
「・・・先輩、老けました?」
教授の右手がうなり、レギュラス君が頭を抱えるまでそう時間はなかった。
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