ドリーム小説










魔法161














「・・・レギュラス」

「え、先輩が教師・・・?勤まってるんですか?」

「うるさい、レギュラス。」

先輩が教師をやっているという事実が信じられなくて。

「レギュラス。」

思わず問えば嫌そうな返事。

「レギュラス!」

あまりにも似合わない職業に笑いしか漏れない。

「おい、レギュラス!」

先ほどからかけられる言葉すべてを無視しつづけていれば、どうやら兄の我慢は限界に達したようで。

しかたなしに、の手を離して、その姿を視界にいれる。

あのころよりもずっと大人になって。

言い意味で言えば、ワイルド。

悪い言い方をすれば、だらしない。

しかしながらそんななりでも顔はよくて。


僕の中、最後の兄はでていく後ろ姿。


またこうやって向かい合うことなどないと、そう思っていたのに。


あのころは、怒りが勝っていたけれど、時間がたった今なら、わかる感情があった。

「久しぶりですね、兄さん。」

おとなしく返事をした僕に兄は虚を突かれたように息をのんだ。

「僕を、家族を、あの場所を捨てた、ひどい兄さん。」

あのころ言えなかった言葉を、空気に乗せて。

兄は何度か口をもごもごとさせて、なにを言うか思案する。

でも、先に言葉は言わせたくない。

「大嫌いでしたよ、あなたのこと」

すべてを僕に押しつけて。

自分だけ逃げ出した。

すべてを捨てて、自分だけ自由になって。

「だけど、」

今、その兄は、今にも泣きそうに眉を下げて、瞳を瞬かせて。

「もういいです。」

あなたの気持ち、わからなくはなかったから。

おいて行かれた怒りは、今思えば寂しさで。

自分に何一つ言葉がなかったことに。

相談もなにもなく、ただおいて行かれたことが

「僕らを捨てた、ひどい兄さん。」

その言葉を放った次の瞬間、真っ黒い温もりに包まれた。

否、包まれそうになった、といった方が正しいだろう。

こちらに向かって飛びついてきた男の頬には真っ赤な手形。

呆然と立つ兄との間。

僕を守るように位置どるのは

降りおろした手をぶらぶらとさせながら、まるで猫が威嚇するように荒い息を吐いて。

・・・?」

兄の口から落とされたの名前。

はそれに反応することなく、僕の前を離れない。


「シリウス、」

今まで聞いたこともないくらい、きつい口調。

後ろにいるはずの僕でさえ、少しふるえた。


「私はあなたが大嫌い」

その言葉に兄の瞳はゆらり、揺れた。

「レギュラス君をたくさん泣かせて。」

込められるのは怒りのはずなのに、じわり、胸にしみこむ。

「兄は弟を守るものじゃないの?」

小さな体で精一杯僕を守ろうとして。

「レギュラス君に全部押しつけて」

ああ、本当にこの子は

「レギュラス君の心の声に気がつかなくて」

たった一人、僕に気がついてくれた優しい子は

「一人で勝手に逃げ出して。」

僕にとって大切で大事で

「レギュラス君の寂しさに気がつかないバカな人」

大好きな守りたい少女。

後ろから手を回してを抱きしめる。

「ありがとう、

僕の言いたいこと全部言ってくれた。

おかげで僕の怒りなんかどこかへいってしまって。

目の前で自主的に座り込んで反省の姿勢を示す兄を見る。

この人はなんて不器用なんだろう。

そう思いながら小さく笑いが漏れた。

ばかだなあ、と、そんな風に思えるようになったのは、きっと、のおかげ。

僕の涙を必死で慰めてくれて、

声をかけてくれて、一緒に泣いてくれた彼女がいたから。



だから、僕は兄への愛を失わずにすんだのだ。



「大嫌いだけど、許してあげてもいいですよ、兄さん」


ば、っと顔を上げて僕へと再度飛びつこうとする兄。

それはやっぱりによって遮られるわけで。

大型犬がしつけられるみたいで笑える。

そっとの頭に手をやってなでてみる。

そうすれば柔らかな瞳が僕を見てて。

小さく笑う。

そっとその手に触れた。

温もり。

沸き上がるのは喜び。


この子にふれられることが、嬉しい。

もう、涙をこぼす彼女を見ているだけの苦痛は終わったのだ。

この手で涙を拭って、この腕で彼女を抱きしめて。

ちゃんと慰めることができるのだ。



未知の世界へとんだ恐怖なんて、ない。



この子を抱きしめられることが、ただただうれしい。





















back/ next
戻る