ドリーム小説










魔法167

















父上の失態を補うための存在。

けれどもそれは、あの人にとってただの見せしめで、娯楽の一種。

僕にできるはずはないと、決めつけていて。

僕にできるわけがないと、高をくくっていて。

だからこそ、しなくてはいけなかった。



ようやっと、手を伸ばすことができるようになった、あの存在に。

ようやっと、目を覚ましてくれた大事な友に



軽蔑されることになっても。

つかんだ手を振り払われたとしても。




でなければ、僕の世界が。

僕の大事なあの人たちが___






だからこそ、追いかけてきてほしくなんかなかったよ、ポッター。






逃げ込んだ先、すべてを流してしまいたくて、洗面台にすがりつく。

あふれでる嗚咽を、涙を、こらえることができなくて。

かたん、小さく音を立てた背後。

慌てて立ち上がって振り向けば、めがねの奥、きれいな緑が驚きを浮かべていて。

「マルフォイ」

呼ばれた名前。

それは僕のもの。

僕が、守らなくてはいけない名前。

「・・・ポッター」

答えた僕の声はひどく弱々しくて。

一歩、踏み出した彼に反射的に杖を向けた。

息をのむ、ポッター。

その瞳には、どうして、と浮かんでいて。

昨年以来、人がいないところではぽつぽつと会話をするようになっていた間柄。

お互いに小さな秘密を話し合ったりするくらいには、僕はこいつを認めていたし、こいつ自身も僕をみてくれた。


けど、もう、だめなんだ。



「マルフォイ」

再度、名を呼ばれる。

それに小さく笑って見せた。


「ポッター。仲良しごっこは、もう、終わりだ。」


瞬間、弾ける光。

幾度もすれ違うその光たち。

けれど、なぜかポッターは攻撃の魔法ではなくて。


「本気で来い、ポッター!」

僕の叫びに対して困った顔をするだけで。

「僕には今のマルフォイと戦う理由がない!」

叫び返された言葉。

想像していなかったそれに、思わず、動きが止まりそうに、なる。


でも、それをぐっとこらえて。


「    」

寸分の違いなく、ポッターに向かって飛んでいった攻撃は、



小さな影によって、遮られた。



「ドラコ」


小さな影は、精一杯両手を広げて、僕とポッターの間に立ちふさがる。

その瞳には今にもこぼれそうな涙が。

それでも彼女はまっすぐと僕をみていて。


「だめだよ、ドラコ。ちゃんとお話ししよう」

泣きそうなのに、笑うから。

僕の杖先は、地面へと落ちた。


その瞬間、杖がはじきとばされて、その杖はポッターの手に渡る。


「マルフォイ」


さっきからポッターは僕の名前を呼ぶだけだ。

もう、やめてほしい、僕を呼ばないでほしい。

「ポッター・・・僕を呼ぶな」

決心が揺らぐじゃないか。

「ドラコ・マルフォイ。」

を通り過ぎて、僕の元へポッターは歩いてくる。

「マルフォイ」

何度も何度も繰り返されて。

本当にやめてほしい、もう泣きそうだ。


「ドラコ」

僕の、僕自身の名前を呼ばれた瞬間、ぎりぎりで保っていた理性が、弾けた。


「呼ぶなと言っているじゃないか!」

「友の名前を呼んでなにが悪い!!」

いつの間にか近づいてきていたポッターが、ぺしり、小さく僕の頬をたたいた。

痛くもない弱々しいそれは、でも、僕の心に突き刺さって。



「ねえ、僕はそんなに頼りない?」

違う、ちがうよ。

そんなことない。

今までの中でおまえの実力は僕がよく知っている。


「確かに立っているところは違うけれど、僕は君を友だと思っていたい」

それは僕だって同じだけれど。

「僕に全部はなしてほしいなんて言わないけど、」

おまえは本当に優しい。

僕の醜さが浮き彫りになるくらいに。

「それでも、君がしたことなら、理不尽に嫌いはしないよ」

言葉の一つ一つが、胸に刺さる。

突き刺さる。

「君と友になった今ならわかる。君のすることには、すべてちゃんと理由があると。」

心臓が、痛い。

「君のしたことなら。信じるよ」

無遠慮に信じるな。


そんなことをされてしまえば、僕は、僕は!

「大事な友が傷つくようなこと、僕は認めたくない」



おまえにすがってしまうだろうが




「自分から傷つきにいく君を、僕は許さないよ」





ほら、手を伸ばさずにいれなくなった。


















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