ドリーム小説
魔法18
今日はハローウィンという日らしい。
甘いお菓子の匂いがここにも漂ってくる。
『・・・いいなあぁ・・・』
ここから出れない私にはどれも遠い出来事。
どんなにおいしいものがでてきても、一人だとあまりにも味気ないのです。
帰ってくるのはもっと先だと、ここに来るのは誰もいないとわかっているのに扉をちらちらと見てしまう。
日本にはなかった行事。
否、あったのだがきちんとすることなどなかった。
なので、あると聞いてとても楽しみにしていた私にきょーじゅが告げたのは非情にもいつもと同じ『ここから出るな。』だった。
目の前にあるパンプキンパイに舌鼓を打ち、様々な種類の料理を口に運ぶ。
『きょーじゅの陰険。根暗。薬学馬鹿・・・・・。』
もごもごときょーじゅにたいする悪口を口にしていると
がたん
扉の向こう大きな音が響いた。
誰もいないはずなのに、おかしい。
「・・・?」
頭の中で天秤が動く。
おとなしくしているか、きょーじゅに怒られるというリスクを背負いながらもこの音の正体を見に行くか。
数秒間の短い葛藤の後私は迷わず後者を選んだ。
(どうせおとなしく待っても、きょーじゅほめてくんないし。)
ドアを開けると辺りに酷いにおいがする。
それに微かに顔をしかめると私は音のした方に足を進めた。
『・・・え?』
音の正体、発信源。
そこにたどり着いたとき私は自分の選択に後悔した。
灰色のそれは月明かりに照らされ鈍い光を放つ。
腐臭は鼻を突きあまりにも色濃く存在感を示す。
4メートルもあるのではないかと思わせるその巨体は手にした棍棒を引きずる。
『っ、』
呼吸が苦しくなるほどの匂いに思わず声を漏らす。
と、
それが、こっちを 向いた。
『やっ、だ、くる、な、くるな、くるな!』
近づいてくるそれに恐怖にすくんだ体は動いてくれない。
『やだやだやだ!こっち、くるな!!』
聞こえていないのか、言葉を理解する能力が無いのか。
最後に見たのは、振り上げられた棍棒。
次いで襲った重い衝撃に酷い痛みに、私の意識はブラックアウトした。
痛みに消えた意識は誰かの温もりで戻された。
「大丈夫か?お前。」
そこにいたのは金色の髪をもつ少年で。
『・・・っ、きょ、じゅっ・・・。』
ぼんやりとした意識の中、今一番求める人の名を挙げる。
「え?」
目の前の少年から不思議そうな声が発せられて。
『きょっ、じゅ・・どこっ・・・』
体中の痛みに、動かない体に、恐怖を感じて。
「っ!!」
聞こえてきた声に、呼ばれた名前に、目に見えた黒色に、
『きょ、じゅ・・・』
手 を 伸 ば し た
それはこのせかいにきたときのかんかくとよくにていて
薄れる意識の中、なれた薬草の匂いに安心した。
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