ドリーム小説
魔法194
「こんにちは、帝王」
笑う。笑う。
教授の前で。
この世界に君臨する闇の帝王へ。
「ようこそ異世界の少女」
彼は答える。
自分の思い道理にならないものなどなにもない、とでもいうように。
叫びの屋敷と呼ばれるこの場所。
呼び出された教授に私はもちろんついていくわけで。
教授ももう、私についてくるな、ということもなく。
「君は魔法が効かないとの話、本当のようだな。」
ゆるり、白い手が伸ばされる。
横の教授がかすかに体を揺らしたけれど、知らない振りしてその手を受け入れた。
頭に、頬に、首に、手が触れる。
冷たい体温に身震いしながらも、笑みはそのまま。
「あの日、あなたに受けた魔法で1年近く眠り続けましたけれど。」
セドリックに向けられた死の魔法それを身に受けた代償は、1年近い眠り。
「魔法は効かない、といえるかと思います。」
だって、未だに心臓は脈を打ちつづけている。
「使うこともできない、と聞いているが?」
首に回っていた手が、頬に固定されて、ぐい、と距離を積められる。
至近距離から眺めた赤い色は、恐ろしいくらいにきれいで。
開心術、というものを使われているのだと、なんとなくわかる。
それでもやっぱりそれは私にはきかなくて。
私の言葉に彼はにんまりと笑う。
「そうですね、使えたことはありません」
”脅威ではない”
そう判断したのであろう、その表情。
手は、はなされることなく、私の腕をつかんだ。
「さて、セブルス」
彼の興味は別の相手へ。
「おまえは本当によくやってくれた。」
その口から発せられる言葉は、彼をたたえるもの
「私の望みを悟り、私の描くとおりに未来を差し出した。」
朗々と響く声。
「けれど、後一つおまえにはやってもらいたいことがある。」
しゅるり、いつのまにそこにいたのか。
大きな蛇が、どぐろを巻く
「さて、セブルス」
始まる問答。
「この杖は、なぜ私の思い道理に動かない?」
ゆっくりと、部屋を動き回る帝王。
「我が君はその杖できわめて優れた魔法を使っておいでです。」
それに連れ回される私を、教授はじっと目で追いかけて。
「いや、ちがう。私の魔力は確かにすばらしい、が、この杖は本来の力を私にもたらしてはいない。」
ゆるり、杖先が、教授に向けられる。
「その杖は、我が君の力を存分に発揮しております。」
教授の答えなど必要としていないかのように、彼は言葉をつづる。
「私は考えた。そして、お前を呼びもどしたのだ、セブルス。」
まるで物語をそらんじるかのように、淀みなく。
ぐ、っと捕まれた腕が痛みを訴える。
「っいた、」
彼の感情をそのまま表すかのように、後がつくほど強く捕まれた。
私の声に、教授がかすかに眉をひそめたのが、わかった。
「この杖は最後に死をもたらした者を新たなる主と認める。」
杖の先がゆるり、教授の首もとへ___
「つまり私ではなく___前の持ち主であるダンブルドアを殺した、お前だ___!!」
杖が、教授へ、何かをっ
「セブルスっ!!」
ぶわりあふれた感情をそのままに、腕を振り払って
私が伸ばした手は、確かに、彼の人に、とどいて。
ばちん
教授を押し倒す形で、魔法ははじかれた
彼にもたらされる災いすべてから、守るために。
「小娘がっ、」
舌打ちが聞こえて、ついで怒り。
それは明らかに私に向かって。
「魔法が効かぬと言うなら、ナギニっ!!」
しゅるり、這いずる音。
ぞっとする音に、体が固まる。
何かが近づく気配。
それが、確かに、私に近づいて___
「私とて、守られてばかりはいられない。」
耳元、つぶやき。
だいすきなひとのもの。
「っぐ、」
体をすっぽりと覆う温もり。
痛さは感じなくて、生ぬるい何かが、飛び散って。
「きょ、じゅ?」
「っ、だい、じょうぶだ、」
そんな言葉信じられない。
荒い息。
どろりとした生ぬるい感触。
それが何か、わからないほど無知ではない。
「や、だ、きょうじゅ、」
ゆるむことのない、強い力。
それは、まるで生に必死にしがみついているように、感じられて。
「ちっ、こざかしい!」
再度、何かが近づく音。
ただ、腕の力が強くなって。
「きょじゅ、きょじゅ、」
抜け出すことなんかできないくらいの力で、抱きしめられて。
そして、また、それが___
「くそ、間に合わなかったか!」
ばちん、と大きな音。
はじきとばされた何か。
先ほどまで近かった蛇の音が、ひどく遠いところに聞こえて。
「昴っ!貴様!!」
「はいはい、久しぶりだね。ヴォル」
後ろの声、でも、どうでもいい。
目の前のこの人以外、どうでもいい。
「きょうじゅ、きょうじゅ!」
必死に呼ぶ。
でも、痛みからか、彼は返事をしてくれなくて。
「やだ、やだよ、きょうじゅ、」
ぞわぞわと、恐怖が近づく。
この人が私をつかんでくれなかったら、捕まえてくれなかったら、
とらわれていたであろう闇に、
あれに捕まるよりも強い恐怖心。
この人を失ってしまうかもしれない、その恐怖。
いやだ、いやだ、お願い
「さて、ちゃんがこれ以上泣いちゃわないうちに、ヴォル、君に真実を一つ、あげよう。」
私にとってこの人は、世界で真実で、唯一で、絶対で、大好きなひと
「その杖の真の、持ち主は、ね
ドラコ・マルフォイ。」
あの日、あの人のために死ぬのだとあなたは言った。
でも、それまでは、私のために生きてくれるってそう言ったでしょう?
「じゃあね、ヴォル、また後で。」
いやだ、よ
「セブルスっ、私をおいてかないで」
私の叫びは、目の前の人に、飲み込まれた。
※※※※※
原作では魔法障壁みたいなもので守られているナギニですが、ここでは無防備な映画バージョンで。
back/
next
戻る