ドリーム小説










魔法195






帝王に呼び出され、共に行く、と告げた少女を私は拒めなかった。

今どこにいても危険なのは変わりなくて。

それならば、せめて目の届くところに。

そう思って、側に置いた。

魔法が効かない彼女であれば、帝王に脅かされることもなかろうと。

帝王の前で笑ってみせる彼女はひどく大人びて見えて。

出会った頃の幼さは、どこにも見あたらない。

帝王が彼女にふれるたびに沸き上がる衝動は、目をそらすことでこらえた。


帝王の杖が、私に向いたとき。


ようやく、か、と感じた。


ようやっと、君への償いは、私の罪は、終わりへと向かうのだと。



だと、いうのに。

帝王に腕を捕まれていたはずの彼女は、いつの間にか抜け出して。


小さな体で、短い腕で、精一杯私を包み込んで。


その呪文から、私を守った。


ああ、いつもそうだ。


いつも、彼女はこの子は、愛し子は、私を守ろうとする。




私は、守られてばかりだ。


「魔法が効かぬと言うなら、ナギニっ!!」


私を抱きしめる彼女の向こう、怒りを露わにした帝王が、杖ではなく、蛇のナギニに指示を出した。

私に回る腕が、触れるからだが、ふるえた。


すがるように、ぐ、っと私に回す腕を強めて。


ああ、愛しい


「私とて、守られてばかりはいられない。」


その小さな体を包み込んだ。


同時に、腕に感じた鋭い痛み。

至近距離で蛇と目が合う。


とっさに振り払うがあまり距離は稼げなかった。


次いでくるであろう衝撃に、よりいっそう腕の中の彼女を強く抱き込む。


腕の中で、なにかごちゃごちゃと言っている気がするが、痛みの方が強く内容を理解できない。


ただ、この腕の中のこの子を、守らねば、とだけ。



二度目の衝撃の代わりに、睦月の声。

そして、姿あらわし特有の浮遊間。


常識はずれな魔力を持つこの男は、相変わらず非常識に、あの空間にいた、帝王以外を姿あらわしに巻き込んだ。


「セブルスっ、私をおいてかないで」


彼女の言葉のなか、それだけが明確に耳に残った。




どこにいても危険だから側に置いた方が、安心?

魔法が効かないなら帝王のそばでも大丈夫?


___違う。


ぶわり、感情が沸き上がる。

目の前の彼女に対する感情が。

違う!

本当は、これで彼女と共にいられるのも最後だと思ったから。

最後のそのときに、一目だけでいいから、彼女を見たかったのだ。


だからこそ、おいていけばいい彼女を、最後まで側に置いた。


この世界から消えていくのに、恐怖はないけれど、


彼女が泣くのだけが少しだけ心残りだったんだ。





共に校長室にとばされたとみれる、ポッターたち三人。

ポッターの、緑の目が、私を、みた。


ポッターの後ろ、ふわり、ただよう君。


君、が、優しく笑って私に手を、ふった。



気がした



「セブルスっ!!」


おいていけはしない。

必死に私を呼ぶこの少女を。

残していくことはできない

腕の中の愛しいと感じるこの存在を。


誰かのそばで笑うよりも

私のそばで笑ってほしい


ほかの誰かに幸せにされるのではなく、

私が幸せにしてみせたい。



それは、私が願っても許されることなのだろうか。




「死なないでっ!!」



泣き叫ぶ彼女。

ぼろぼろとこぼれる滴は、すべて私を思っての感情。


私だけの、もの。


涙にぬれた瞳

赤く染まる頬

触れる小さな指先


愛しいどれもが、私に向けられる


なだめるように体に触れても、彼女は決してとまりはしない。


なれば


嗚咽をこらえる唇


それをふさぐだけで。


「っ、」

隙間から小さくこぼれた音。

それを耳にしながら、再度触れるその小さな唇。


幾度か重ねれば、ようやっと目の前の彼女は涙を止めて。

それでも、滴にあふれた瞳を私に向けてくる。



「私が、・・・私が死ぬのは、悲しいか?」

言葉を発した瞬間、ぺしり、と小さな音。

同時に頬に感じた小さな衝撃。

「そんな当たり前なことを聞かないといけないくらい、私の想いはとどいてないの?」

止まったはずの涙が、再度こぼれた。

ああ、彼女を傷つけた。

思いはしても、それでも、聞かなければ信じられなくて。

なにも信じられない世界で、ずっと人を疑って生きてきたから。



わかりきった返事。

それでも、それを求めたのは、


「わたしの居場所は、お前の側にあるのか?」


ぼろぼろと涙をこぼしながら、それでも、君はうなずいた。










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