ドリーム小説



魔法205






「じゃあ行こうか。」

満面の笑みのまま、私の手を引いて、ハリーは突然姿あらわしをした


「ハリー、教授に用事ってっ、」

言ってたんじゃないの??

そう言ったのに帰ってくるのは笑顔だけ。

「ホグワーツの修復の間は学校内も姿あらわしができるから便利だよね。」

そういいながら訪れたのは、WWWのロゴに外観が非常ににぎやかしい一つのお店。

ハリーが扉を開ける、その前に、目の前の扉が大きな音をたてて、開いた。


「「!!」」


同時に前から二人分の手が伸びて、私の目の前を埋め尽くした

ぎゅうぎゅうと、痛いくらいに包まれる。

けれどその温もりは、暖かさは懐かしいもので。


「ふれっど、じょーじ」


名前を呼べば、二人は返事の代わりにさらに力を強めた。



会うのはあの戦いぶり。

しかもあのときは、誰にも会いたくなかった教授が私を連れてそうそうに姿を消したから。

ほとんど話もできなかった


ちょっとだけ、距離を離されて。

フレッドがぺたぺたと私の体を触りまくる。

ジョージが私の頬を両側から包み込む。

「「、ちゃんと生きているね!」」

どういう確認だ、そう聞きたかったけれど

それでも、ふたりの顔があまりにも真剣で。

ふたりの瞳が、今にも潤みそうだから。


先にこっちの涙腺が、ゆるんだ。


ぼたぼたと、みっともないくらいに墜ちていく涙。

だって、だって、あの戦いは二人の方が、私以外のみんなの方が危なかったはずだ。


魔法が効かない私なんかよりも、二人の方が死んじゃうかもしれなかったのに!!


「泣かないで、

「大丈夫、僕らは生きてるから」


私の涙に二人は顔を見合わせて。

そこからびっくりするくらいにうれしそうに笑った。

さっきはあんなに泣きそうだったのに。

ひょい、とジョージに抱えあげられて。

からん、とフレッドはとびらをあけて。


「「ようこそ、僕らの店へ」」


開かれた扉の奥、乱雑におかれたカラフルな商品。

彼らの心の中をそれこそ表したかのような、世界。


そしてその中にいたのは___

!!」

ふわっふわの髪をなびかせて飛びついてきたハーマイオニー

「ハーマイオニー、がびっくりしちゃってるよ。」

ハーマイオニーをたしなめながら穏やかに笑ってみせる、ルーナ

「久しぶり、

ほっとしたように私の名前を呼んでくれるロン

「ハーマイオニー、そろそろ僕もがほしいな」

そういって次に私を持ち上げたのはセドリック

「先輩も元気にしてる?」

そんな私の頭をなでてくれたのは、レギュラス。

「ちゃんと食べてるか?」

頬にふれて下から見てきたのはドラコ。


そこにあったのは、大切な、人たち。



でも、わたしが唯一のために、見捨てた人たち。



ぎゅう、と心臓が、いたくなる。

思わずうつむく私の頭が、再度優しくなでられた。


ちゃん」


この世界でたった一人。

私をこう呼ぶのは、睦月君だけで。

セドリックの腕から逃げ出して、思わず彼に手をのばす。

そうすれば、彼は優しく私を抱きしめてくれるわけで。

「大丈夫だよ、ちゃん。」

なだめるように、彼の声は穏やかで。

「ここにいる誰も、君が先生を優先したことを怒ってない」

私の心の奥、ひどく汚いところを、彼は優しくなでてくれて

ほら、顔を上げて、と促される。

ぼろぼろの顔でそおっと、辺りを見渡せば、皆が心配そうに私をみていて。


その瞳のどれにも、怒りは、ない。


また、一つ、滴がこぼれた。



と、



ばん、とひどい音を立てて扉が開く。

一斉にそちらを向く、その前に、私の体は新たな人物によって抱き上げられて。

みなくても、わかる。

薬草の香り。

黒一色のローブ。

私の顔を胸に押しつけて、大きく息をつく、愛しい人。


早い鼓動は、私を心配してくれたから、だと、思ってもいいのだろうか。

「「教授!そんなに乱暴に扉を開いたら壊れてしまうじゃないですか」」

双子の言葉に教授は返事をすることはなく。


「頼むから、勝手にいなくならないでくれっ。」


小さな、小さな私だけに聞こえる声で、教授はつぶやいて

そのままゆっくりと息をついた。


「睦月。慰めるのは、私の役目だ。」


のどの奥から絞り出すような音で睦月君に告げる。

安心する大好きな声。


ぎゅうぎゅうと強い力は、ほかのなによりもいとおしい。

少しだけ苦しくなった呼吸。

それを解放するためにもぞり、体を動かせば、教授は私を抱きなおしてくれて。

ようやっとまっすぐ教授を見ることが可能になった。

疲れたような表情。

うっすらと隈がある顔。

それでも私を見る瞳は優しくて。


最近忙しいこの人を、ひさしぶりにちゃんとみれた。

ふわり、胸が暖かくなる。


「ポッター。手紙をおいて勝手につれていくな」


どうやらハリーが教授にお手紙をおいていったらしい。

そしてこの人はそれをみてすぐに駆けつけてくれたわけで。


「スネイプ先生」

ハリーが、教授を呼ぶ。

つられてわたしもそちらをみれば、まっすぐに、緑の色が教授をいぬく。


その色に、瞳に、教授はかすかに息をのんで。



ああ、いやだな。



思わず教授の目を両手でふさいだ。


「・・・


教授からはあきれの声。

周りからはかすかな笑い声。

どうやら私の嫉妬という感情はあっさりと彼らに見抜かれたようで。


「大丈夫だよ、

ハリーの穏やかな声。

「だって、今先生が僕の目を見たところで、僕の母を思いだしたところで」

優しく笑う、英雄は。



「想い続けているのは、、君なんだから。」




こちらが照れるくらいの言葉をあっさりと口にした。


「ねえ、先生」


そんな風に同意を求めたところで、教授が返事をするはずなんて___





「___その通りだ。」




シン、と、空気が凍った。

それこそ、誰一人微動だにしない。

皆が目を見開いて、口をぽかん、とあけて。




「っ、セブルス!!」



あふれる

想いが、感情が、だいすきというきもちが、


あなたを、あいしている


こころが、からだが、あなたをもとめる







ぎゅう、と抱きしめた私を抱きしめてかえして、教授は店の外へと足を向けた。




静まり返る店内などどうでもいいとばかりに。



「帰るぞ、



一緒にいてもいいのだと、言外に告げる。

側にあってもいいのだと、態度で伝える。


離れたくないと私が願っていることを、この人は知っていて。

だからこそそれが現実になるように、動いてくれて。




もう慣れた、姿あらわしの衝撃。

この優しい人はいつでも私に負担がないように、と行ってくれて。


現れた先、そこは想像していた城ではなく、この人がずっと生きてきた、家。

なぜこちらに来たのか、わからなくて教授を見上げれば、なぜか目を合わせてくれない人がいて。


どうしようかと視線をさまよわす。


あまり明かりの入らない室内。

本で埋め尽くされたこの場所は、この人が生きてきた世界。


愛しい人の、育った家。


と、

そっと右手をとられて。

指が、からめられた。






大好きな声。

それがいまは緊張をはらんで聞こえて。


「帝王は消えた。平和、といえるかどうかはわからないが、今までのように理不尽に命が脅かされる時代は、終わった」

手を引かれて促されるまま一人用のソファへ。

「けれど私について回る悪評は、決して消えることはないだろう。」

座らされれば、目の前に教授が膝を突く。

「それによってお前が迷惑をかぶることも少なくない」

ためらうようにうろつく視線、が、ゆっくりと、私を見据えた。

「それでも側にいたいと思ってくれるか?」

なにを今更。

そう言いたかった、けれど、今必要なのはそんな言葉じゃなくて。


「帝王が生きていようとなかろうと、私の世界はあなたです。」

あなたがわかってくれるまで何度だって繰り返す

「あなたがいるところが私のいるところで、私がいるところがあなたの帰ってくるところです。」

たった一人、私がすべてをかけてでも守りたい、愛しい人

「私はお前よりも大分年上だ。」

「そんなこと、わかっています」

「確実にお前よりも先にいなくなってしまう」

「そんなの、誰もがいついなくなるかなんてわかりません。いつかくるそんな日をおびえて今を手放すなんて、いやです。」

私の言葉に教授はそっと目を閉じた

「言いたいことは、それだけですか?」

手を握り返して、そっと聞く。

そうすれば教授の口角は柔らかく笑みを描いて

「お前の側でお前が笑うのを見て、」

手のひらが頬に触れる。

「お前のことをもっと知って、」

なでられて、触れられて。

「お前が望むことを一緒にして」

愛しさがどんどんあふれていく。





、お前と共に、生きていきたい」




まっすぐな、瞳。

触れる手のひら。

優しい口元



全部全部、あなたを形作るすべてが


あなたを構成する全部が




ただ、愛しい




闇に飲み込まれそうだった、私を。

拾い上げて、助けてくれて、側に置いてくれた。


優しい人、頼れる人。

それはいつしか一緒にいたい人に変わって

好きだなあ、っていう曖昧だった感情は、

愛しいというたしかなものに。


この人が背負う罪を、つらい過去を、知ったときは悲しくて。

私が側にいることで変わることがあればと思った。


想いを受け入れてくれたときはうれしくて

これが幸せなんだと感じた。


彼が生きる理由が、彼女への贖罪だと、なれば、この人は喜んで死んでしまうのだとわかったときは恐ろしくて。

私が、一人残されてしまうことが、イヤで。


危ないからといつだって私を遠ざけようとする度、

あなたがいいと訴えて。


何度も何度も傷ついて、痛みを、繰り返して、繰り返して。


たどり着いた、今。


側にいたいと、願った私を、あなたはようやっと受け入れてくれた






「もちろんです、セブルスさん」




あなたはわたしのせかいで

あなたはわたしのゆいいつで

わたしがいきていくりゆうで




これから先、あなたと一緒に歩いていける世界ならば、もうなにも怖くはないわ。



あなたはとてもすてきに笑って、私の唇をそっとふさいだ。





世界は平和になったのか。

その答えは、もっていないし、私にはあまり関係のないことで。

私が今、わかることは

私にとっての真実は、一つだけ。




私は今誰よりも大切で大好きな人の側で生きていて。



これから先も愛しくて大切でたまらない人の側で生きていける。










fin




※※※
2015年12月
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