ドリーム小説
魔法75
暴れる柳をかいくぐって、たどり着いた先。
そこでは教授が誰かに杖を突きつけているところだった。
そして、そんな教授に、杖が、向けられそうになっている、時だった。
「教授!!」
とっさに名前を呼んで、彼と杖の間に入り込む。
瞬間、向けられていた杖からは一つの呪文が放たれて。
「っ、!?」
放った相手であるハリーの焦った声が響く。
私をかばおうとする教授の手を、遮って。
「!!」
ハーマイオニーやルーピンの声。
それらを振り切るように、呪文は、魔法は私へとぶつかった。
そして、それは案の定、私に当たった瞬間に拡散して。
「・・・?」
ばしん
「っいた、」
後頭部に走る、痛み。
未だ手に持つゴブレットのせいで頭を押さえられず、ただうめく。
おそるおそる見上げれば非常に凶悪な教授の顔。
「馬鹿者!危険なことをするな!」
視線を合わせたまま、教授はその場にしゃがみ込んで。
ぺたぺたと体にふれられて、けががないかと確かめるように。
「痛みは。」
「大丈夫です」
「おかしなところは」
「元気です。」
短い質問に短く返せばようやっと安堵のため息。
立ち上がった教授のローブをつかんで、小さな声で礼を述べる。
それはあっさりと無視されてしまったけれど。
「・・・どういうことだ、スネイプ。」
「今、確かにに魔法が当たったと思うんだけど。」
向けられた低くうなるような声。
今更ながらにそちらをむけば、居たのは黒い、黒い人。
「っ、」
あの日、ハロウィンの日、恐怖を植え付けた張本人。
ぎゅう、と教授のローブをつかみ一歩、後ずさる。
そうすれば、教授はかばうように一歩前にでてくれて。
「ブラック。おまえに話すことなどなにもない。」
そう言って教授は再び杖を構える。
一寸の狂いもなく、向けられるのはブラック、と呼んだ相手へ。
「、けがは、けがはないの?!」
突如、衝撃。
ぎゅう、と横から伸びた手が、私を柔らかく包み込んだ。
「ハーマイオニー、」
物理的にブラックから距離をとれたからか、少しだけ恐怖が和らぐ。
「大丈夫、ですよ。私に魔法は効かないですから。」
いつもは姉のように頼りがいのある彼女が、ひどく狼狽えて。
落ち着かせるようにその髪をなでる。
そうすれば、彼女は少しだけ安心した表情を見せて。
「・・・そうだったわね。私たちが出会ったきっかけも、それだものね。」
思い出すのは三年前。
トロールによって負った怪我。
魔法以外の痛み止めを所蔵しないこの場所で、彼女が持つ薬は私の命をつなぐ一端を担って。
あの事件の後副校長につれられて、この少女と出会った。
魔法が使えないし、効かない私を笑って受け入れてくれた優しい彼女。
ありがとう、そんな思いを込めてほほえめば、ハーマイオニーもとてもきれいに笑って返してくれた。
「魔法が、効かない・・・?」
ハリーのつぶやきにハーマイオニーから視線をずらす。
そして、気づく。
自分の真上から向けられる視線に。
そおっと顔を上げれば、そこにはなぜか呆気にとられたような表情を浮かべる教授の顔。
「教授・・・?」
なにがあったの?
そう問いかけるようにローブを揺らせば、はっとしたように彼は表情を険しいものに変えて。
「いらぬことを話すな。」
そう言いながらもなぜか彼の視線はさまよって。
それが終着したのは私の手に握られたゴブレット。
無言でそれを手にとって、ずずい、とルーピンへと差し出す。
「よもや忘れて居るまいな?」
差し出されたそれをみて、さあっ、とルーピンの表情が青ざめる。
「あ、ありがとうセブルス」
「おい、リーマス。」
受け取ってぐ、っと傾けようとしたルーピンを止めるのは黒い人。
立ち上がれば四方から杖を向けられたので降参でもするかのように両腕をあげて。
でもその瞳はぎらぎらと教授を、そしてその後ろの私をにらみつける。
「それは、なんだ。」
純粋なる疑問、と呼ぶにはひどく憎々しげな声。
それに対してルーピンは困ったように声を上げた。
「僕が、リーマス・ルーピンであるためになくてはならないもの、かな。」
込められた意味に気づけるほど私は賢くない。
でも、その言葉でこの場にいた皆には意図が伝わったようで。
男の人は舌打ちを漏らす。
「リーマスに何かあったら一番におまえを疑ってやる。」
込められた意味は分からなくても、向けられる悪意くらい感じ取れる。
教授の後ろで縮こまっていた自分を叱咤して、ハーマイオニーの手をすり抜けて、ば、っと彼の前に躍り出る。
「教授を虐める、は許さない。」
両手を広げて教授をかばうように、守るように。
「教授は、私が守る、ですよ。」
私の大好きな、大切な人を傷つけるなら、容赦はしない。
黒い人を、睨みつけて、告げる。
心からの言葉を
「教授を虐げるなら、許さないよ。
この世界で私を受け入れて認めてくれた優しい人を。
全てのものから守ってくれた強い人を。
私が心から大切と、そう思うこの人を。
今度は、私が守る番なんだから。」
まだ自然に口からはでない、この世界の言葉。
それでも衝動に任せて発したそれは、私の本当の、気持ち。
届かなくていい。
理解されなくていい。
でも、皆の前で口に出すことで、それを確かなものだと感じたかった。
どんな好きであろうと、私がこの人を好きなことに代わりはないのだから。
ふわり頭の上に、温もり。
なでるでもなく、ただ、触れるだけのそれ。
その顔を見上げれば、今までみたこともないくらいに、優しい表情。
仕方がないな、とでもいいたそうな、穏やかな色。
「何度も言わせるな」
その表情に見ほれていれば、危険なことをするな、と言外に込められて
「ええと、・・・ごめんなさい、教授」
ばくばくと音を立てる心臓をぎゅう、と手のひらで押さえてなだめながら、ゆっくりと視線を逸らす。
ぶわり、沸き上がる熱を持て余す。
後ろからぎゅう、と赤い顔を隠すようにすがりつけば密かに私に甘いこの人はため息を一つだけはいて前を向いた。
「ポッター、ウィーズリー、ルーピン。この少女の体質を他言した瞬間、死ぬ方がましという目にあわせてやろう。」
脅しであるはずのそれに、ブラックの名前は含まれていない。
相変わらず杖の向く先は、たった一人。
後ろ手に回された腕は、確かに私を、そしてそばにいるハーマイオニーをかばうように配置されていて。
「さて、ブラック。ディメンターがおまえを待ち望んでおる」
にやりとわらう教授を止めるのはハリーとルーピン。
ブラックはロンが手にもつねずみに視線をやって。
そして、始まるのは、彼、シリウスブラックの真実語。
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