ドリーム小説










魔法76


















目の前に躍り出た存在に、心臓が止まるかと思った。


我が輩よりもずっと小さな体で、幼い容姿で、ポッターからの攻撃をあっさりと受け流す。

その体に魔法があたったときは肝が冷えた。


わかっていた、理解していた、はずだった。


けれど、試したのは三年も前で。

今も、そうとはいえなくて。


魔法が効かない、特殊な体質。

だからこそ、彼女は翻訳に関する魔法も、薬も効かなくて、未だに言葉が不自由だ。



「大丈夫、ですよ。私に魔法は効かないですから。」


彼女の口からその言葉が発せられたとき、気がついた



自分が、この少女に向ける感情の、意味を



この少女だけが、この世界で闇の帝王からの干渉を受けない特殊な存在なのだと。

閉心術も、開心術も、使えない代わりに使われることもない、存在なのだと。




我が輩が唯一、ありのままの心で接することができる存在なのだと。



だから、気がついた。


自分がこの少女に甘くなる意味も。

自分がこの少女に心惹かれるわけも。


だから、だからこれは、恋などと、浮ついたものではないのだ。


脳裏に、浮かぶ、彼女の姿


私が生涯愛し続けるのは

たった一人

私が永遠に想い続けるのは、


   リリー


彼女だけだ


「教授・・・?」


かけられた言葉に意識を戻す。

視線をさまよわせて目に入ったゴブレットを取り上げてルーピンへと押しつけて。

そうすれば忘れていたのだろう、さあっと表情を青くして視線をさまよわせた。

感謝のことばとともに、一気に飲もうと傾ければそれを止めるブラック。


向けられる嫌悪に虫酸が走る。

いらだち以上にどすぐらい感情が浮かび上がる。

「僕が、リーマスルーピンであるためになくてはならないもの、かな。」

本意ではない。

学生時代、ずっとずっと嫌い続けた相手に、自分の腕を振るわねばならぬ状態を、本意に思えるわけがない。

「リーマスに何かあったら一番におまえを疑ってやる。」

ブラックの言葉に怒りは頂点に達する。


おまえが、それを、言うのか?

私をさらに、貶めるというのか?

ぶわり、沸き上がる怒りの衝動のまま、杖が、ブラックを捕らえて__




「教授を虐める、は許さない。」



小さな体を精一杯広げて

不自由な言葉を必死で操って


は、その全身で、態度で、言葉で、示す。





私を、守ると。




「教授は、私が守る、ですよ。」




その言葉は、確かに私の心までもを、守る。


自分を、周りを、世界を、すべてを、常に偽り続けなくてはいけない状態で、



唯一、偽らなくてもいい存在。



今この世界で私にとって、唯一無二の、失うことにあらがいがたい抵抗を覚える、一人の、少女。




だから、違うのだ


記憶の中、リリーが、笑う。

困ったように、仕方がなさそうに



あのときとは全く違う、柔らかな笑顔で、私にほほえむ。




錯覚、しそうになる。

彼女が私を許しているのだと。


私の想いを、ゆるそうとしているのだと。



だから、違うのだ。




この感情は、想いは、決して


あの少女に向けるものは、リリーに向けていたかつての感情とは別物で。


そう、たとえるのならば、珍しいものを手に入れた優越感。

少女に向けるのは独占欲。







そう、思っていたかったのに。






「教授を虐げるなら、許さないよ。

この世界で私を受け入れて認めてくれた優しい人を。

全てのものから守ってくれた強い人を。

私が心から愛しいと、そう思うこの人を。

今度は、私が守る番なんだから。」



いつのまに、そんなに流暢にはなせるようになったのか。

子供だと思ってていたのに、幼い子供だと思っていたかったのは、むしろ私の方で。



じわり沸き上がる、想い。




錯覚だと言い聞かせ続けたかったのに。

そんなことを言われてしまったらもう、どうしようもないではないか。



ああ、もう認めよう

この感情のありかを。

伝えるつもりなど、毛頭ないけれど。




私はどうやら、、君が、大切なようだ。



小さな体で精一杯私を守ろうとするその姿も

大きな瞳をきらきらと輝かせる好奇心も

私を無条件で信頼してくれるその無垢さも


わたしにとって、それらはひどく焦がれるもののようだ。







すまない、リリー


君のことを永遠に想うことにかわりはない



でも、もう一人、後一人だけ、この心に住まうことを許してはくれないか。


私の全ては、私のこれからはリリー、君のために使うと決めている。


それでも、この心が揺れることだけは、黙認してくれないか。




小さなその頭に、一度、ふれる。


愛しい


小さくこぼれた感情を、振り払うように声をかける。

「何度も言わせるな」

頼むから、危険に身を置こうとしないでくれ。

たとえ魔法が効かなかろうと、大人の、それも男の力には勝てるはずがないだろう。


心配を、かけないでくれ。


頼むから、私が居ないところで傷つかないでくれ。












※※※

我が輩→意識下
私→無意識

という使い分け


















back/ next
戻る