ドリーム小説
魔法84
睦月 昴
あの世界でのクラスメイト。
小学校だけでなく、中学校も同じクラスだった。
友人未満、知り合い以上。
たぶん、その言葉が一番しっくりくる。
知ってはいるけど、挨拶はするけれど。
一緒に遊びに行ったり、するわけじゃない、仲。
好きか嫌いか、問われても、ふつう、としか答えられないような関係。
そう、それだけの、関係___
「睦月 昴、くん・・・?」
私が発した名前は、彼にとっての正解だったらしい。
一度だけ、何かをこらえるように、瞳を閉じて。
頬に触れていた手は、そこから離れて、背中に回されて。
そのまま、ぐ、っと引き寄せられた。
「だ。」
耳元で声が響く。
ぎゅ、と抱きしめてくる彼に、何の反応も、できない。
痛い、と叫びたいくらいの力。
でも、それが彼のすべてを物語るようで。
どうして、どうして、どうして?
頭のなか、ぐるぐる回る思考
考えが追いつかない
意味が分からない。
なんで、なんで、どうして??
どうして、あなたが、ここに、この世界に、いるの?
『 ずっと、探してた。 』
ささやかれたのは、日本語。
私の持ちうる大事な言葉。
『 どうして、 』
あなたがここにいるの?
私を捜していたの?
あなたは___
ふわり、香ったのは薬のにおい。
目の前の彼は引きはがされて、かわりに背中にぬくもり。
視界を覆ったのは、黒。
「おまえは、なんだ。」
耳に響く、教授の声。
彼の薬に荒れる手が、私の世界を閉ざす。
高鳴っていた心臓が、混乱していた頭が、一気に冷静に、戻される。
「昴」
低い声。
そっと、優しい教授の手をはずして世界を、みる。
彼の名前を呼んだのは、先ほどドラコが興奮して名前を呼んでいた相手。
そのクラム、という人が睦月君の頭をべしり、と一度たたいた。
「勝手な行動はぁ、許さぁない。」
独特な、鉛のある言葉。
それでも不快ではない。
睦月君は、ぱっと先ほどまでの表情を一転させて、朗らかに笑った。
「ごめんごめん、クラム。ちょっと懐かしい知り合いを見つけて、感極まっちゃった。」
くるり、その場で辺りを見回して、睦月君は笑う。
「皆さんもお騒がせしちゃって、ごめんね?」
明るいその様子に、静まり返っていた大広間の空気がゆるむ。
無意識に、教授のローブを握る。
ひたり、睦月君から再度向けられた視線に体をふるわせれば、教授がなだめるように手に触れてきて。
『 ちゃん、後でちゃんと、はなそうね。 』
日本語で、この場所で、私だけが聞こえる言語で、彼はそう告げた。
他の生徒の元へと戻っていく睦月君。
離れた距離にほっとして、教授を見上げる。
そうすれば教授は彼を見続けていた。
_あなたは犠牲の上に立っているのだと。_
彼女の言葉が、よぎった。
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