ドリーム小説










魔法85















大広間での歓迎会を終えてすぐ。

教授と共に部屋に戻った。

「睦月昴君。私の元の世界での級友です。」

あれは誰だ。

教授の言葉に、私はそれしか返せない。

まっすぐに向けられる教授の鋭いまなざしに、じわじわと心は弱って。

「どうして、この世界に彼がいるのか、私にはわかりません」

かすかにひきつるのどに、声に、この人は気づいているだろうに、ただ無言で先を促す。

その答えなど私は持ち合わせていないのに。

その答えを、私こそが知りたいというのに。

ソファに腰掛ける教授の前、ただ呆然と立ち尽くして言葉を探す。

「教授、教授、どうして、」

どうして、

どうして

どうして

何度口にしたって、求める言葉は返ってこない。

声はみっともないくらいに涙の色を滲ませて。

揺らぐ視界では目の前の人のことだって認識できず。


ぐ、と喉が音を立てる。

漏れそうになる弱さを、苦しさをこらえるように。

「___泣くな、。」

香る、薬のにおい。

教授が作り出す真っ暗な世界は、なによりも安心できる場所で。

人よりも低いであろう体温は、興奮する私の熱を緩やかに下げる。

「おまえをせめているわけではない。」

穏やかな、低い声。

「あれがこの場所にいるということは、おまえがどうにかなれるかもしれないということだろう。」

濁された言葉。

含められた意味。


私が、帰れるかもしれない、可能性。


知らないふりをしていたかった。

忘れたそぶりで過ごしていた。


ぐるり、巡る家族の顔。



同時に、悟る。



家族の顔にだぶるのは、この愛しい人のもの。



たぶん、私は望んでいない。

この人のいないあの世界に帰ることを。




ぎゅう、とこの人の胸に体を預けて、自分のあさはかさを、知る。


この人の目の前であれば、こうしてもらえるって、知っていたから。

この優しい人であれば、慰めてくれるってわかってたから。


だからこそ、甘えた。


たくさんの重いことを、私にははかりきれないほどのことを抱えるこの人に。

私という負担をさらに、増やした。


どうして、あの世界での友人が、ここにいるの。


そう思いながらじわじわと思考を浸食するのは罪悪感。


ごめんなさい、あなたの足かせにしかなれなくて。








この手を手放せる日は一生こない。




あなたが振り払うそのときまでは。





















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