ドリーム小説
魔法86
眠って、起きて。
そうして毎日は、また、繰り返される。
昨日、後ではなそう、そう言った彼はまだ私の前に姿を見せない。
それならば、こちらからいく必要はないと、思って。
ぐるぐる、いらない思考ばかりを繰り返す頭を振り払って教科書を持つ。
今日は授業。
去年と同じように、今年も教授のお手伝いをしている
今日の授業はセドリックの学年。
けれどいつもなら手際よく魔法薬を完成させていくセドリックがどことなく上の空で。
「セドリック!」
提出を終えて、教室からでていく彼の背中を追いかけて呼び止めれば、いつもとは違う、淡い笑み。
「」
ふわり、頭をなでられる。
小さな子供にするように、この人はいつも私に触れる。
柔らかなその温度を嫌いになれるはずはなくて。
「セドリック、何かありましたか?」
甘んじて受け入れながら、そっと問いかける。
そうすればなでていた手のひらが、ぴたり、止まって。
気持ちよさから閉じていた目を開ければ、珍しく泳ぐ視線。
ぐ、っと背伸びをして、彼の顔を両手で挟む。
「セドリック」
再度名前を呼べば、観念した、とばかりに困った瞳が向けられて。
「・・・迷ってるんだよ」
ぽつり、落とされた言葉。
常とは違う、自信のない響き。
ああ、この人に、こんな姿は似合わないな、と思う。
「皆は、立候補するべきだ、って。」
なんとなく、理解した。
魔法の試合のことだと
この人は、強い人だから。
すごい人だから、周りがみんな、はやしたてているのだろう。
無言の私に対して、また一つ、二つ、言葉を落とす。
「でも、あまり自信がもてない。」
少しだけ、怯えるように、彼は瞳をかげらして。
両手で挟んでいる顔が、また下に、下に下がっていく。
「セドリック、こっちをみてください。」
そうすれば、彼のまっすぐな瞳が、こちらに向けられる。
きれいな色に、思わず、頬がゆるんだ。
「セドリックなら、大丈夫です。」
彼の顔を引き寄せて、背伸びをして、こつり、額どうしをくっつける。
すごく近くから、セドリックの瞳をみつめて、笑う。
「私は、何度もあなたに助けられました。」
かみしめるように、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「あなたのおかげで、私は今、ちゃんと言葉を得て、あなたに想いを伝えられます。」
揺らぐ、瞳。
いつもは兄のようなのに、今は弟を相手にしているようだ。
「大丈夫。」
あなたは、とても強い人だから
「大丈夫」
あなたは、とても優しい人だから。
「大丈夫」
だって、
「セドリックは私のヒーローだから。」
本当は、危険なことなんて、してほしくはないけれど。
それでも、あなたはきっと成し遂げてしまうだろう。
「知ってますか?私の国では、ヒーローは決して負けないんです。」
だから、セドリックは、負けないんですよ。
私の言葉に、ようやっとあなたは笑ってくれた。
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