ドリーム小説










魔法89












「いいよ、そのまま眠ってしまいな。」


耳もと、柔らかい誘惑に私は逆らうことができなくて。

その温もりにすがりついたまま、意識を落とした。




ぱちり

最近遠のいていた心地よい目覚め。

それに驚いてゆっくりと体を起こす。

否、起こそうとした。

「・・・え?」

体に回るのは、誰かの腕。

動かない体はそのせい。

ゆっくりと視線をあげていけば、そこには赤髪。

閉じられた瞳。

かかるまつげは思ったより長く、眠っている表情はいつもよりあどけなくて。

「・・・フレッド?」

半信半疑、名前を呼ぶが、彼からの返事はなく。

「正解。」

代わり、とばかりに聞こえた声は、後ろから。

首だけをよじってふりむけば、暖炉の前、一人掛けのソファに腰を下ろして手を振るもう一人の赤髪。

「昨日の夜フレッドが君を連れてきたんだ。この談話室にね。」

そこで、ようやっと、理解。

私が今フレッドに抱きしめられながら眠っていたのはグリフィンドールの談話室。

たぶん私を連れてベッドにはいけなかったのだろう。

暖炉の前の一番暖かい大きなソファ。

寒さは、感じない。

それがフレッドの優しさを示すようで。

「・・・おはよう、ジョージ」

温もりを甘んじて受け入れながら、ジョージに朝の挨拶を向ける。

そうすればおはよう、と穏やかな声が帰ってきて。

は本当に間違えないな」

同時につぶやかれたそんな言葉。

なんのことかと首を傾ければジョージも同じように首を傾けていて。

「僕たちのこと。」

うり二つだと言われる双子。

彼らは自分たちを見分けられない自信があって。

だからこその、言葉。

けれど私にとってその疑問は少しばかり理解できない。

「だって、全然違いますから。」

フレッドも、ジョージも、姿形はそっくり。

でも、まとう雰囲気は違う。

二人とも、発する声は同じ。

でも、周りへ向ける視線が違う。


「フレッドとジョージは、にているけどぜんぜんにていないですよ。」


私の言葉にジョージはぽかん、と口を開けて。

そして、困ったように眉を寄せた。


「母親でも未だに間違えるのにな。」


ぽつり、落ちた言葉。

少しだけ寂しそうな響き。

それを聞いた瞬間、私の口は勝手に動いていた。


「大丈夫、私は決して間違えませんから。」



ジョージは虚をつかれたように息を止めて、そして仕方がなさそうに笑った。



にはかなわないなぁ」



そう言って、彼は私の目の前まで歩を進めた。


目の前にしゃがみこんだジョージが私に手を伸ばす。

柔らかく、目尻をなぞられる。

そのまま手のひらは頬にふれて、包み込むようにそこで止まった。


「フレッドの前で、泣いたの?」

一瞬で思い出した。

昨日の自分の失態を。

フレッドにすがって、泣き叫んだ自分のことを。

ぶわり、熱が、顔にあがる。

同時に口走った内容が脳裏に浮かんで。

今度はさあ、っと熱が冷める。

言ってはいけないことを、たくさんはなした気が、する。


どうしよう、教授に怒られてしまう。


焦る思考。

それを止めたのは、暖かい手のひら。





柔らかいジョージの声。

そういえば、自分の前にジョージがいたことをすっかり忘れてしまっていた。

一部始終を見ていただろうジョージが小さく息を吐く。


、何があったか僕にはわからないけれど___」

柔らかく、彼は笑う。


が僕らの前で泣けるようになって、すごくうれしい。」


その言葉の意味をはかりかねて、ジョージを見つめる。

そうすれば彼はまぶしそうに瞳をすがめて。


「何かあったら、またおいで。いつだって話を聞いてあげるから。」


その言葉に、瞳から滴がこぼれた。

おかしいな、昨日あんなに泣いたのに。

フレッドにいろんなこと、打ち明けたのに。

涙と一緒に言葉があふれだす。

秘密にしなきゃいけないって、わかってるけど。


もう、苦しい。

もう、抱え込むのは、嫌だ。



「私はこの世界の人じゃないの。」

気がついたらこの世界にいて、教授に拾われて。

どうしてこの世界にきたのかわからない。

魔法も使えなくて、効かなくて。

知ってる人だって、誰もいなかったの。

・・・いなかった、はずなの。

でも、あの世界の、あの世界にしかいなかったはずの人に会った。

その人は、私を知っていて。

私もその人を知っていて。

帰りたいって気持ちはあったけど、無理だろうなって気持ちの方が大きくて。

だから、帰るっていうことを、考えないようにしていたのに。

なのに、彼に会ってしまったの。




昨日よりも順番立ててはなせている気がする。

ぽつりぽつりと、つぶやく私を、ジョージは静かに聞いてくれて。


「そっか」

やっぱり、ジョージの声は変わらない。

穏やかに私を慰めるように彼は頭をなでてくれて。

そしてなぜか、にやりと笑った。

「一つだけわかることがある。」

ジョージの言葉。

同時に体に回っていた腕が、強くなる。

がこの世界にきた理由。」

フレッドの、声。

耳元でとても近いところで寝起き特有のかすれたそれ。


「「僕たちに会いに来たんだよ。」」


突拍子もない言葉。

でも、それはあながち間違いでもない気がしてきて。


「「ねえ、僕たちのお姫様。」」


後ろからはフレッドが

前からはジョージが


ぎゅうぎゅうと、楽しそうに抱きついてくるものだから


悲しかった気分は吹き飛んで

考えることがありすぎてぐるぐるしていた頭が晴れていく。




そっか、私は会いに来たんだ。



この二人に



そして、あの愛しい人に。



























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