ドリーム小説
魔法99 すべて日本語
大広間の前。
扉にもたれたままで睦月君は手を振って。
「ちゃん、一緒にご飯食べよう」
日本語でそういった。
断る理由はまったくないので二人で大広間の中へ。
特に場所が決まってないのでたまたまあいていたレイブンクローの席へ滑り込んだ。
相も変わらずおいしそうな食事の数々。
それを前にして二人で目を合わせた。
「ちゃん。お米恋しくならない?」
「ものすごく。」
おいしいものは好きだし、ここの料理もすごく好みではある。
けれど、生まれ育った場所で、食べ慣れたものと言うのは、いつだって唐突に思い起こされて。
白く光るお米
香りたつ味噌汁
甘辛く煮詰めた根菜類の煮物
思いだせば、なんだか目の前の食事たちが色あせて見えて。
「・・・睦月君、料理は?」
「ほぼ未経験かな。」
「ですよね。」
思いを馳せる、数々の故郷の料理たち。
「・・・睦月君、甘いものは好き?」
「まあ、人並みには。・・・ああ、そういえばちゃんの家は和菓子屋さんだったね。」
それに一つうなずいて。
「楽しみにしてるね。」
笑顔で告げられたそれにもう一度うなずきを返した。
「あ、」
にこにこと笑う睦月君。
彼からもたらされるいろんな話を聞いていれば、彼の向こう、黒をまとう教授が足早に歩いていて。
「ん?どしたの?」
私の声に反応して睦月君が後ろを向く。
教授を見つけて一度二度、瞬いた後、彼は私に向き直った。
「ねえ、ちゃん。」
少しだけ、声の質が変わった気がした。
教授がテーブルについたのを見届けて睦月君を見る。
柔らかな表情で笑っているのは変わらないのに。
どことなく、瞳の色が、違った。
「あの人は、ちゃんの、なに?」
睦月君の瞳の奥、暗い、くらい闇の色が、ゆれた
あの人は、教授は、私にとって___
「この世界での、真実。」
その答えは思っていた以上に簡単に口からこぼれでた。
ぽかん、と口を開ける睦月君がおもしろくて、笑みが浮かぶ。
「それって、どういう?」
意味が分からないとばかりに眉をひそめた彼から視線を外して。
再度見るのは愛しいあの人。
「この世界で、私を捕まえてくれて」
あの暗い世界の中から救い出してくれた人
「私に居場所を作ってくれて」
ここにいてもいいと、そういってくれた優しい人
「私を受け入れてくれて」
私の言葉を信じてくれた人
そして
「私が、好きになった人」
愛しくて、愛しくて仕方がない人
まっすぐと睦月君に向き直って、告げる。
心からの想いを、感情を。
私の言葉に対して睦月君は口を閉じたまま、再度教授に視線を向けた。
「あの人がいるからこそ、今ここにいる私が真実だと思えるの。」
私が私であるために、必要な人。
「・・・そっか。」
睦月君はこちらをみないでそう返した。
「いいなあ。」
睦月君の口からこぼれたのはそんな言葉。
なにに対しての言葉なのかわからなくて、今度は私が首を傾げる。
そうすれば睦月君はようやっとこっちを見てくれて。
「そういう相手が、この世界にあることがうらやましい」
ぼんやりと、何かを思い浮かべるように口にした。
back/
next
戻る