ドリーム小説














 BASARA13






政宗の部屋にお茶を持っていった帰り、は炊事場へと足を進めていた。

「お〜い!ちゃん!!」

そんなときに響いた声は最近よく聞く声で、は自分の頬が緩むのを感じた。

「成実様。」

考えていた人物通りの人がの元へと走ってくる。

訓練の直後なのだろう。肩まである茶髪がしっとりと濡れている。

「どうかしました?」

何か用があり声を掛けてきたのだろう。

そう思い成実に尋ねる。が、笑顔のままいっこうに話し出そうとしない成実には違和感を感じた。



(・・・なにか、おかしい・・・?)


「聞いたよ〜ちゃんのこと。梵に、ね。」

その言葉にぴしり、との動きが止まった。

違和感の正体。

笑っていない瞳。

不自然に上がる口元。

普段の彼では絶対に浮かべないであろう笑み。



動きが完璧に止まったに成実の鋭い視線が突き刺さる。


「ごめんね〜。たとえ梵がちゃんを信じても、俺は、君を信じない。よ。信じるかどうかは俺自身が決める。」


いつか感じたあの鋭い殺気が再びに訪れる。

それは、以前と変わらずまっすぐにに突き刺さる。

冷たいものがの背中を流れる。

以前と同じ状態。否、以前よりも強い視線に、の身体が震える。

が、それと同時には若干の安堵を覚えた。


(この人も、優しい。・・・自分の主が傷つく前に、自分で相手を試してる・・・。)

自分が傷つくことも厭わずに。          
                        
(・・・そして、他の人たちみたいに、むやみに私を信じてくれない・・・。)

それは、怖いことのはずなのに、に安心感を抱かせる。

異分子である自分を信じてくれた政宗たち。

だがそれに対し安心とともには恐れを抱いてもいた。

信じて欲しい。

信じて欲しくない。

相反する2つの思いがの気持ちを翻弄する。

(この人たちが信じてくれても、私は私を信じられない、のに・・・。)

を信じないと宣言した成実はきっと、今以上にを監視するのだろう。

主に、政宗に毒にしかならないと判断されれば、躊躇い無くを葬り去るだろう。

けれどもにはそれが、必要だった。

を証明するものが自身しかない今の状態で、全てに受け入れられてしまえば、はこの世界を当たり前の世界だと錯覚してしまう。

自分が本当はイレギュラーな存在だと忘れてしまう。

それはにとって、あまりにも恐ろしいことだった。



持っていたお盆が音も無くの手から滑り落ちる。

それが地面につく前に、誰かがそれを掴んだ。

それと同時に、その場の雰囲気が和らぎ、肌に突き刺さるような恐怖は、消えた。

聞こえたのは、溜息。

その聞こえた声の方に顔をやると、そこにはお盆をとるためにしゃがんだ成実の姿。

その顔に先ほどまでの笑いは、無い。

変わりにあるのは、満面の笑みでもない、今まで一度も見たことの無い、表情。

いうなれば、苦笑。



「本当は今も君を信じるつもりは無いよ?でも、君はあまりにも無防備だから。少しだけ、梵の傍に少しだけならいてもいい。」


それは、主を思うが故の精一杯の妥協。

とても解りにくくて、とても解りやすい、彼の優しさ。

成実はいつも笑っている。

太陽のようにその笑顔で周りを照らす。

それは、彼の仮面。

不用意に中に入らせないための壁。主を守るための鎧。

何よりの忠誠の証。




「ありがとうございます。」



成実のその言葉には満面の笑みとともにそう答えた。














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