ドリーム小説
BASARA14
「政宗様。です。」
夜、政宗の部屋の前。は風呂敷を抱えてそこにいた。
昼に言われたのでそのとおりに来たのだ。
「Come in.」
昼と同じ返事には中へと入る。
「失礼します。」
そこはうっすらとした闇の中蝋燭の光が揺れている。
が、そこに政宗の姿は無い。
(・・・あれ?・・・)
きょとりと首を傾け、周りを見渡す。
と、窓辺にその人はいた。
月明かりの中、幻想的な雰囲気の中、その一つだけの瞳がを見据える。
「Come here.」
抑揚の無い静かな声で政宗は言う。
その声の元に近づいた。そのが手に持つ風呂敷に政宗は疑問を投げかける。
「What is this?」
「これは私がこの世界に来た時に持っていたものです。」
そう言って、はその風呂敷を広げた。
そこにはこの世界に来た時に身に着けていた制服があった。
唯一のの世界を示すであろうものだ。
残念ながら、ここに来る前に持っていたはずのかばんは無かったのだが。
梅のもとからこの城へ来るときにが持ってきたたった一つのものでもある。
自分のことを話すつもりなど無かったので、はこの制服のことももちろん言うつもりは無かった。
が、政宗に、また小十郎たちにも話したのである。
この際だから見せてしまおうとは思ったのだった。
「Ha〜・・・。」
の持ってきたその服を政宗は興味深そうに眺める。
そして、手に取りいろんな方向からそれを見た。
「・・・。」
やはり珍しいものなのか、とそんなことを思いながら政宗のその動作を見ていた。
制服に向いていた政宗の瞳がつと、のとかち合う。
とくり
合わさった視線に、の心臓が小さく跳ねた。
捕らわれる。
捕らわれていく。
そんな感覚に、おちいる。
(このかんかくは、なに?)
「。」
名を呼ばれ、はっとは政宗に意識を向けた。
「・・・何でしょうか?政宗様。」
政宗は再び制服に視線を戻していた。
「これは確かにこの世界、今のこの国ではないものからできてるみてーだな。これがお前の国の、お前の世界のものなんだな。」
「はい。」
「OK。ちなみにこれはどんな時に使うんだ?」
「それは制服、と言います。昨日話した学校と言うところにいくときに着ていくものです。その場所では教えを受ける側のものは皆この服を着ています。」
「I see.・・・。」
じっと制服を見ていた瞳がを見る。
とくり
再び先ほどの感覚に捕らわれることは無かったが、胸がもう一度小さく音を立てた。
「何ですか?」
その音から逃れようとは無意識に視線を外す。
視線が外れたことには何の関心も示さず政宗は言った。
「。これを着たあんたを見てみたい。OK?」
「はい・・・っ?!」
驚き彼を見たの瞳に映るは、先ほどの雰囲気など少しも持たず、口の端を上げ、意地悪そうに笑う政宗だった。
「・・・久しぶりに着ると、短く感じる・・・。」
政宗は嫌だとの拒否を示したにかまわず、にやりとした笑みのまま、部屋を出て行った。
『俺が戻ってくるまでに、costume change、しとけよ?』
そういい残して。
久しぶりに身に着ける制服には違和感を感じながらも袖を通した。
学校指定の何の変哲も無い、白いカッターシャツ。
黒と白のチェックの柄スカート。
ちなみに長さは膝上だ。
これまた黒色に白の線が入ったカーディガン。
赤を主としたネクタイを締めている時、何の合図も無く襖ががらりと開いた。
驚くとは反対に政宗は、手に持ったお盆をそのままにしげしげとを見つめた。
「Ha〜.なかなかcuteじゃねーか!」
「っっ・・・。」
その言葉にの顔がぼっと熱を帯びる。
再び、にやりとした笑いを浮かべ政宗は、部屋の中へと入る。
先ほど出て行くまでにいたところと同じところに座り、を見上げる。
その視線に耐えられず、は顔を真っ赤にしたまま視線を合わせない。
「くくくっ。freshな反応じゃねぇか。」
(このひと、いじわるだ・・・)
決して視線を合わせようとしないにひとしきり笑った後、政宗はにすわるように言った。
目の前に座ったに政宗は持ってきたお盆を置く。
それを見て、慌てて用意をしようとするを止めて、自分でお茶を淹れ始めた。
「俺が呼んだんだ。特別にいれてやる。」
政宗と。
二人の前には湯気を立てたお茶と、見目麗しい茶菓子が置いてあった。
甘いものが大好きなはそれをおいしそうに頬張っていた。
「なあ、。」
そんなに政宗は声を掛けた。
口がふさがっているため、首を傾げて意思表示をするに政宗は少し笑い言葉を続けた。
「お前の、の世界は戦の無い平和な世界だといってたな?・・・それはどんな世界だ?」
それにははっとした。
これが政宗が一番聞きたかったことだと。
(この人はどんな時でも、一国の主だ・・・)
急いで口の中のものを租借し、お茶で流し込むとは話しだした。
「・・・私の世界は、私の住んでいた国は戦争を、戦をすることを放棄した国なのです。」
政宗はの話に耳を傾けている。
「以前は戦で他国と争っていました。けれども私の国が負けたときにもう戦わないと、自国防衛の目的以外では力を使わないことを世界と約束したのです。そのおかげで、今の私の国は平和、なのです。豊かで誰も飢える事の無い世界、物に、人に溢れた世界。」
「・・・幸せな世界、か?」
「・・・私にとっては、そう、でした。」
「にとっては?」
「・・・戦が無い、理不尽に傷つく人などほとんどいないはずなのに、私の世界では何の理由も無く殺される人もいました。」
「Why?」
「ただ殺してみたかった。誰でもよかった。むしゃくしゃしていた。・・・そんな理由で、殺される人が多くいました。」
「・・・。」
「でも、それは私にとっては他人事の話でした。家族とともにこんな事件があったと、怖いね、かわいそうだねとそう言って、それだけなのです。」
「・・・」
「そして、確かに私の国では、戦はありませんでした。」
「の世界、では?」
「私の国のほかにも、違う国が数多くありました。戦をおこない、自分たちの大義名分を振り回し、無関係の人々を傷つけている国もあります。・・・他の国に比べて私の国は大変恵まれていました。」
(そう、恵まれてた。私の国は。この世界に来て改めて感じた、あの世界の豊かさ。そして、私の国の『異常さ』を。)
ふと俯き言葉を止めたに政宗は再び問いかけた。
「。お前はこの世界にどんな未来を望む?」
それには少し考え、そして顔を上げて言った。
「私にこの世界の未来を望む権利があるのならば・・・。私はこの世界の人々が笑えるような、ともに居たい人同士が理不尽に離されることの無いような、そんな世界を望みます。」
その答えに政宗は目を細め、次いで口の端を上げ意地悪そうに訪ねた。
「みんなが幸せになれる世界、とは言わねーのか?」
それには瞠目し、ゆっくりと口を開いた。
「そんな世界はありえません。幸せの定義は皆違います。一人が幸せになると、代わりにどこかで不幸せになっている人が必ず居ます。それを望むのは自己満足に過ぎません。」
そのの言葉に政宗は満足そうに笑った。
その後二人はの世界の話をいろいろとした。そしてそろそろが自室に戻ろうと腰を上げたときだった。
「政宗様」
ふいにが政宗の名を呼んだ。
そして言った。
「政宗様。一つだけ忘れないでください。国をまとめるのは、奥州筆頭である政宗様です。けれども、国を作るのは国に住む人たちです。国のために民がいるのではありません。民がいるからこそ国ができるのです。・・・それを忘れないでください。」
そう言うとはそっと頭を下げて政宗の部屋を後にした。
「OK.Never forget.」
政宗のそんな言葉には気づかずに。
が部屋に帰るとと部屋の中は何者かが荒らした後のように乱れていた。
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