ドリーム小説
BASARA14.5
政宗は窓辺で月の光を浴びていた。
満月と呼ぶには少し足りない月。
そして満天の星を眺めて呼び出した人物を待つ。
さらり
布の擦れる音とともに気配が近づく。
政宗はぼおっと襖の方に目をむける。
月の光が届ききらない部屋を照らすはちいさな蝋燭の明かりのみ。
(・・・来たか。)
そう思うとともに声が掛けられる。
「政宗様。」
「Come in.」
聞こえてきた声にすぐさま返事を返した。
「失礼します。」
静かに部屋に響く声。それは高くも低くも無く、すっと耳になじむ。
あたかも『毒』のように
部屋に入ってきた彼女は蝋燭の明かりのせいか、昼とはまったく違う印象を与えた。
『あれ?』という感じできょとりと首を傾げ辺りを見渡す。
と、ようやく政宗をみた。
(・・・気づいてなかったのか?こいつ・・・。)
そう思うと政宗は一つしかない隻眼で彼女を捕らえる。
「Come here.」
近づき月明かりに照らされた時に、先ほどまでの蝋燭の明かりでは見えなかった物が見えた。
「What is this?」
不思議に思い尋ねると彼女は手に持っていた風呂敷を広げた。
「これは私がこの世界に来た時に持っていたものです。」
そこにあったのは黒と白を基調とした布・・・(?)だった。
「Ha〜・・・。」
手にとってみると、それはまったく感じたことの無い手触りで、なんとも気持ちがいい。
ごわごわとせずするりと手肌になじむ。
3つほどに分かれたそれらは、それぞれ異なる形をしていておもしろい。
たしかにこれらはこの世界には無いものであるといえよう。
ふと、視線を感じ顔を上げる。
ぞくり
視線が合わさる。
他の者と代わり映えもしないような二つの黒い瞳。
なのに、政宗は背筋が震えたのを感じた。
(・・な、んだ?今の・・・。)
まるでこちらの全てを見透かすような、それでいて、全てを包み込むかのような。
これ以上そんな感覚になるのを恐れ、政宗は、す、と目線を手に持っていたそれに移した。
「。」
その感覚をごまかすかのように政宗は彼女の名を呼ぶ。
「・・・何でしょうか?政宗様。」
少し間を空けて声が返ってくる。
それに何でもないように話を続けた。
それは『制服』というもので、衣服らしい。
彼女の説明を聞いていても理解できないことが多々ある。
だがその説明を促したところで彼女は以前の時のようにしどろもどろになってしまうだろう。
そう思いながら政宗は再び顔を上げる。
「I see.・・・。」
一瞬だけ合わさった視線。
先ほどのような感覚にはならなかったが、すぐに目をそらされたそれにいささかの不快感を抱く。
しかし顔には出さない。代わりにある事を思いつく。
「。これを着たあんたを見てみたい。OK?」
「はい・・・っ?!」
「くくっ。からかいがいのあるヤツ。」
ふとした思い付きに対し慌てる彼女がおもしろく、言葉を残し強引に部屋を出た。
目指す炊事場への道中笑いをかみ殺せず思わす口に出る。
はたから見れば不審者だろうが気にしない。
目的であった湯飲みと茶菓子を、炊事場にまだ残っていた喜多に頼み、お盆を受け取った。
彼女はもう着替え終わっただろうか。
がらりと何もいわずに開けたそこには、首に巻いた紐を複雑に結んでいる彼女がいた。
驚いたのかそのままの状態から動かない。
(・・・というより、動けねーんだろ。)
そんなことを思いながら、彼女の全身を見回す。
「Ha〜.なかなかcuteじゃねーか!」
「っっ・・・。」
その言葉にの顔がぼっと熱を帯びた。
にやり、と自分の口の端が上がるのを感じた。
先ほどまでいた場所に移動し座り込む。
が、彼女は赤い顔のままこちらを見ない。
その反応がおもしろく再び言葉をつむぐ。
「くくくっ。freshな反応じゃねぇか。」
それにますます顔を赤くする彼女に政宗は声を堪えられず笑った。
ひとしきり笑った後、彼女を呼び寄せ座らせる。
お茶を入れようとすると彼女が慌てて手を出してきたので『俺が呼んだんだ。特別にいれてやる。』と言っておいた。
おいしそうに茶菓子をほおばるのを見て、
(こいつはあめーもんが好きなのか)
と認識する。
知ったところで大して役に立たないことだとは思っているが。
「なあ、。」
言葉をかけると口がふさがっているからだろう。
首を傾げてこちらを見る。
(なんか、小動物みてぇだ。)
そんなことを思い無意識に口の端が上がる。
そして、尋ねた。
「お前の、の世界は戦の無い平和な世界だといってたな?・・・それはどんな世界だ?」
他のことより何より、聞きたかったこと。
この世界ではない世界の、でもこの世界に訪れるであろう未来のこと。
それが、今日彼女を呼び出した最大の理由だった。
政宗の言葉に慌てて口の中のものをお茶で流し込み話し始めた。
「・・・私の世界は、私の住んでいた国は戦争を、戦をすることを放棄した国なのです。」
彼女の話に耳を傾ける。
「以前は戦で他国と争っていました。けれども私の国が負けたときにもう戦わないと、自国防衛の目的以外では力を使わないことを世界と約束したのです。そのおかげで、今の私の国は平和、なのです。豊かで誰も飢える事の無い世界、物に、人に溢れた世界。」
ところどころに混じる、不審点。
それは、その世界がいいものではないと聞こえるような。思わず、尋ねた。
「・・・幸せな世界、か?」
「・・・私にとっては、そう、でした。」
間を空けかえってくる答え。
「にとっては?」
「・・・戦が無い、理不尽に傷つく人などほとんどいないはずなのに、私の世界では何の理由も無く殺される人もいました。」
「Why?」
「ただ殺してみたかった。誰でもよかった。むしゃくしゃしていた。・・・そんな理由で、殺される人が多くいました。」
「・・・。」
それらはこの世界でもあることで、でも、平和、と呼ばれる世界でも起こっているということが信じられなくて。
「でも、それは私にとっては他人事の話でした。家族とともにこんな事件があったと、怖いね、かわいそうだねとそう言って、それだけなのです。」
「・・・」
「そして、確かに私の国では、戦はありませんでした。」
「の世界、では?」
「私の国のほかにも、違う国が数多くありました。戦をおこない、自分たちの大義名分を振り回し、無関係の人々を傷つけている国もあります。・・・他の国に比べて私の国は大変恵まれていました。」
そういう彼女の顔は俯きどこか悲しげで。
聞いてみたいと思ったのだ。
この世界以外を知るという彼女が願う世界はどんな世界なのかと。
だから思わず、尋ねた。
「。お前はこの世界にどんな未来を望む?」
(まさかああいう答えだとは思わなかったがな。)
政宗の脳裏に先ほどの言葉が響く。
『政宗様。一つだけ忘れないでください。国をまとめるのは、奥州筆頭である政宗様です。けれども、国を作るのは国に住む人たちです。国のために民がいるのではありません。民がいるからこそ国ができるのです。・・・それを忘れないでください。』
はじめは、記憶喪失の少女。
次は、異世界の人間。
本当は信じきれなかった。
が、この度の話で気が変わった。
「realに信じてやる。あんたの言うこと受け止めてやるよ。」
彼女には聞こえぬと解っていながら、政宗はそうつぶやいた。
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