ドリーム小説
BASARA15
政宗の傍で女中として働くようになってから幾日か過ぎた日、は自室の前で溜息をついていた。
(・・・政宗様に制服を預けておいてよかった・・・。)
何度目かもう数えられないほど荒らされた自室を眺めながらはそう思った。
政宗に制服を見せたときに預かっていて欲しいと彼の自室においてきてあったのだ。
はぁ、と再び重い溜息をつき、は散らかった自分の部屋を片付けた。
ことの起こりは、政宗付きの女中になった日。
夜、政宗の部屋で話をし、帰ってきたときだった。
数少ないの荷物は帰ってきたら片付けようと思ったので端に固められ置いてある。・・・はずだったのだ。
それが何があったのか、ご丁寧に全てが引っ張り出され部屋に散乱していた。
部屋に備え付けてあった棚の引き出しまでもが引き出されていたのだ。
はそれを見て、恐怖を感じるでもなくぽつりとつぶやいた。
「・・・よく、ここまで散らかせたねぇ・・・。」
先ほども言ったようにこの部屋はの私室ではあるが、あまりにも物が少ないのだ。
しかも移って来たばかり。
それをよくもまぁここまで散らかせたものだ、とは思っていた。
その日が、始まりだったのだ。
それからの毎日はある女中たちによって、大きく変えられた。
は他の同年代の女中たちに避けられるようになっていたのだ。
それどころか、数少ないの私物がなくなることもよくあった。
仕事を押し付けられるのは日常茶飯事である。
原因はわかっているのだ。
やってきたばかりのが、他の人々を差し置いて政宗付きになったことが許せないのだろう。
井戸の近く、他の女中たちに混じりは洗濯をしていた。
政宗のは朝に終えていたので、今やっているのは政宗以外の、城の兵たちの分である。
はようやく政宗付きの女中としての仕事に慣れ、喜多なしで仕事が進められるようになっていた。
太陽を前に座っていたに影がかかる。
と、同時に声がふってくる。
「ねぇあなた。もうそっち終わるわよね。これもお願いね。」
その声が終わるか終わらないかのうちにばさばさとたくさんの布がの上にふってきた。
洗い終わった物の上にも落とされたので、それも再び汚れた。
(・・・。)
はゆっくりと上を見上げる。そこには2人の綺麗な女性がいた。
よりもいくつか年上の彼女たちはよりも先にこの城で働いていた。
そして、に様々なことをしてくる中心人物たちだ。
今声を掛けてきた彼女がこの城のぐらいの女中たちのリーダーにあたる人だ。
名を紀伊(きい)といった。
そしてその後ろにいるのは、菫(すみれ)という。
いつも静かでおとなしいイメージを与えるが、どことなく怪しげな雰囲気を持つ。
にとっては、紀伊よいも菫の方が苦手だった。
彼女たちはいずれもが政宗付きの女中として働き出すまでは、何も解らないにたくさんのことを教えてくれた人たちだった。
とても良い人たちなのをはしっている。
だからこそ無下にできないのだ。
彼女たちの方が実力もあり、機転も利く。
にもかかわらず政宗は彼女たちではなくを選んだ。
それは、政宗はが珍しいという理由から。
そこにはおそらく監視という意味も含まれているのだとは思っている。
が、彼女たちはそうは思っていないのだ。
彼女たちの瞳に浮かぶのは嫉妬や悲しみ。
これはきっと政宗が自分たちを選ばなかったことに、そして、信じてもらえてなかったのかということにショックを受けたのだろう。
(・・・そんなんじゃないのに・・・。)
そう思っても、はこのことを説明できない。
彼女たちが誤解するのももっともなのだ。
つまり、にはどうすることもできないのだ。
今、にできることは渡された洗濯物を洗うことだけだった。
周りの女中は洗濯を終え、次の仕事へと向かっていった。
に手を貸すものはいない。
自身はこれらのことを悲しく思いはするが、それ以上の感情はとくに抱かなかった。
「?」
ぼおっとしながら、残りわずかになった洗濯物を洗っていると、後ろからふと声を掛けられた。
それには手を止め振り向く。
「小十郎様。どうかなさいましたか?」
後ろにいた小十郎にそう尋ねると、小十郎は脱力したように溜息をついた。
それにきょとりと頭を傾げるに小十郎はもう一度溜息をつくと言った。
「他の女中のやつらはどうした?何でお前しかいねぇんだ?」
その言葉にはへらりと笑った。
「他の方々は次の仕事へ向かいました。」
「・・・お前のがそんなに残ってんのに手伝わなかったのか?そいつらは。」
「いえ・・・えぇと、・・・落とし、ちゃったんです。」
険悪な雰囲気をにじませる小十郎には恥ずかしそうにそう言った。
「・・・おとし、た?」
「・・・はい・・・。不注意で、自分のだけでなくほかの人々のも・・・巻き込んでしまいました。」
しょんぼりとした雰囲気という言葉がぴったり当てはまる、そんなを見て小十郎は苦笑を浮かべる。
「・・・小十郎様は何を?」
雰囲気にたえきれないようには話を変えた。
「あぁ。畑の方に今から行こうかと。」
その言葉には目を輝かせた。
「畑が、あるのですか?!」
その声に小十郎は少し驚きの顔を凝視する。
そこには、目をきらきらさせたがいた。
「・・・興味があるのか?」
「はいっ!」
「・・・よければ、見るか?」
「!は・・・。」
小十郎の言葉にはうなずきかけるが、今は仕事中だったことを思い出し、声を止めた。
その理由を察した小十郎はどうしようかと思案し、次いで感じた気配に声を掛けた。
「姉上。を借りてもよろしいか?」
「かまいませんよ。」
いきなり、誰もいなかったはずの方向に声を掛けた小十郎。
それに間髪いれず返ってきた声には驚き飛び上がる。
振り向いた先にいた、喜多にはあわてて礼をする。
と、すぐに喜多から放たれた言葉には満面の笑みを浮かべた。
「小十郎の手伝いをしてくださいな。」
「!はいっ!」
「すごいっ、すごいです!小十郎様!」
目を輝かせ、いつもとはまったく違うがそこにはいた。
喜多に手伝ってもらい、は申し訳なさで一杯になりながら洗濯を終わらせた。
そして、小十郎の後をついてきたの目に映ったのは綺麗に整備された一面の野菜畑だった。
「ここ、小十郎様が、世話をしていらっしゃるんですか?!」
「あぁ。」
興奮したまま畑を見るに小十郎は少し笑いながら返事を返す。
その返事にくるりと小十郎に向き直ったはさらに絶賛の嵐を送った。
「すごいです!ここの野菜たちすごく生き生きしてます!しかもほとんど虫に食べられたりもしていません!小十郎様が愛情一杯で育てていらっしゃるからですね!」
そう言って、にこりと笑ったに小十郎は口元に手を当て、そっぽを向いた。
その所為で見えた耳がほのかに赤い。
「・・・そりゃ、政宗様にうまいもん食べてもらいてぇからな。」
そのままの状態でそういった小十郎にはますます笑顔を深めた。
(小十郎様、照れていらっしゃる・・・。こんな表情もされるんだなぁ。)
がそんなことを思っているとは知らず小十郎はに話しかけた。
「何でそんなに興味があるんだ?」
「えぇと・・・。私の世界の母の趣味だったんです。」
それには、笑顔を苦笑に変えて答えた。
「こんな大規模なものでも、こんなに上手なものでもなかったですけど、いつも忙しい母の唯一の趣味でした。私たちにおいしいものを食べてもらおうと、不器用な母が四苦八苦してやってました・・・。」
そう言って、どこかを懐かしむかのように見るに小十郎は思わす言葉を失った。
帰りたくても帰れない。
会いたくても会えない。
その気持ちがどんなものなのか少なからず理解する小十郎にも、に言葉をかけることはできなかった。
「・・・と言っても、今はこの世界にいて、母に会うことはできないのです。なので帰れたときのために、小十郎様!私に上手な野菜の作り方、教えてください!」
その言葉とともに再び、笑みを浮かべた、に小十郎は笑って答えた。
「俺の教えは厳しいからな?覚悟しとけよ?」
___________たとえ、 もとのせかいにかえれるかどうかわからなくても____________________
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