ドリーム小説










BASARA  19










「ぐっ!?」

 口の中に広がる違和感。

じわじわと何かが自分の中を浸食していく感覚に、はとっさに口の中の物を吐き出した。

時刻は夕餉時。

女中の仕事を終えたが遅めの夕餉を取っているときだった。

周りから起こるざわめきに頭の中が真っ白になっていくのを感じた。



(・・・今、この人たちは何をした?)



まだ女中として城仕えを始めて日の浅い

そのがいきなり女中から政宗付きの女中へとかわったのだ。

嫉みや嫉妬がないわけではなかった。

持ち物が荒らされていたり、仕事を押し付けられたり、掃事後の汚れた水をわざとかけられたり、そんなことは日常茶飯事だった。

だが、そんなことはにとってはどうでもいいのだ。

それらは全て自分が我慢でもすれば他に迷惑をかけたりすることもなかったのだから。



だが、



(・・・いま、このひとたちは、なにをした?)



これは駄目だ。



周りの嘲笑のなかは立ち上がった。

そしてそのまま、襖を開けて廊下へと飛び出す。

つい先ほど歩いた道を、今度は走って引き返す。後ろからは先ほどよりもおおきなざわめきが聞こえたが、はまるでそれが聞こえないかのように目的の部屋へと走った。

酷い眩暈がする。

異常なほどの汗が出てくる。

だがそんなことよりも早く・・・。

(さっきまで執務をしていたのだから、まだ口にしてないはず!)

目的の部屋の前まで来るとはそのままの勢いで襖を開けた。

「っ、まっ・・ね・・さっ!」

そこには、今にも夕餉を口に運ぼうとしている政宗と、そのそばに控える小十郎の姿があった。

!!今、政宗様は夕餉を召しあがられている最中だ!そのように何の承諾もなく室内に入るとは何事だ!」

いつもとは違う恐ろしい小十郎の声も今は気にならない。

走っただけではない息苦しさに、は顔をしかめ、出ない声の変わりに政宗のもとへと進み、その場にしゃがみこんだ。

「Hey 。いったいどうし・・・!」

訝しげな表情の政宗の言葉が終わる前に、は政宗の手から器を叩き落した。

!!いったいどういうことだ!?」

ころりと転がる器に小十郎の怒りの声が響く。

器を持っていた政宗もさすがに驚きの表情を見せた。

(・・・よかった・・まだ口にしてない・・。)

俯き肩で息をしているの顔を覗き込んだ政宗は、の顔に浮かんだ尋常ではない量の汗にそしてあまりの顔色の悪さに息を呑む。

「!、おま−・・」

またも政宗の言葉が終わる前には立ち上がり、部屋を出ようとする。

「Wait!!」

とっさに政宗はの腕を掴んだ。


「・・・放して・・ください。・・・政宗・・様・・・」



息も絶え絶えにはつぶやく。

「Suit!そんな状態で−・・」

ゆっくりとが振り向く。振り向いたと視線が重なる。

その瞳のあまりの強さに政宗は思わず手を離した。

「・・申し訳・・・ありま・・せん。・・・無礼・・は・・わかって・・・・ます。・・・後で・・必ず・・・処罰・・は・・受け・・ます。・・・」

その言葉に口を開こうとした小十郎を視線で止めると、一礼して部屋から出て行くを見た。

(なんて目しやがんだアイツ・・・)

先ほどのの瞳にいつもとは明らかに違う雰囲気を感じ取り、驚きやらなんだかよくわからない感情に政宗は捕らわれた。

「・・・政宗様・・」

そんな政宗に控えめな小十郎の声が響く。

その声にはっとなった政宗の耳が騒がしさを捉えた。

の向かった方向だ。

「・・なんかあったみてーだな。・・・のとこに行くぞ。」







「何?!今の。なんかあったの?」

「なんか、口に入れたのすぐに吐き出してたけど。」

「うっわ、きたない・・・。」

が政宗付きになったことに怒りを覚えているのは、紀伊や菫だけではない。

その証拠にその場にいた女中たちはを心配することも無く話を続けている。

その中で、口元を覆い目を見開き座り込むものがいた。

   紀伊だ。

(こんなこと、なるなんて、しらな、い!どうし、よう。、しんじゃったりしたら、どうし、よう!)

恐怖で震えだす紀伊を尻目に他の女中たちは話を続ける。

「だいたい、来ていきなり、政宗様付きの女中になるなんておかしいじゃない。なんかせこいことしたのよ!」



どんっ





何かをたたいたような音にその場にいた女中たちは、一斉に振り向く。

そこには、壁に拳をたたきつけたまま俯くの姿があった。

その姿に紀伊は安堵の表情を見せた。

そして他の女中たちはその場にいたのが、であるとわかると、明らかな嘲笑と嫌悪を含ませた表情をした。

「あら?御加減がよろしくなさそうよ?はやく、お家にお帰りになられてはいかが?」

「     」

その言葉には何かをつぶやいた。

「なにかしら?よくきこえないわ。」

嘲りの表情を隠すことなく言い募る女中。

その女中の言葉にゆっくりとは顔をあげた。



「いいかげんにしな!」

今まで一度も声を張り上げたことのないの怒鳴り声に、女中たちは驚きの表情を見せた。

「私だけなら別に何も言うつもりありませんでした!

けど今回のはさすがに見逃すわけにはいきません!

もし手違いで他の人の夕餉にまぎれ込んでいたら?

もしそれを政宗様が食していたら?

ちゃんと私に当たっていたからよかったものの、もし政宗様が本当に食していたら、あなたたちはどうやって責任を取るつもりだったのですか!?

あなたたちはここに何をしに来ているのですか?

人を嫉むため?

いじめるため?

そんなことのために来ているのであれば今すぐ家へ帰りなさい!

私たちは、政宗様を守り助けこの奥州をよりよい地にするためにここにいるのです!

そんな私たちが政宗様の足を引っ張るようなことをしていいとでも思っているのですか?!」



そう言った後ゆっくりとの身体が傾ぐ。

完全に倒れきる前に誰かの手がをささえた。

その姿を目にした女中たちは瞳に畏怖をうかべ、慌ててひざまづいた。

「・・・Suit・・・。」

ゆっくりとむけられた視線はあまりにも強くそして恐ろしかった。

政宗のその瞳に声に雰囲気に女中たちはさらにちじこまる。

抱きとめたの身体はあまりにも熱く、汗の所為か着物が湿り気を帯びていた。

「小十郎、医師を呼べ。」

地から響くような声で言った、政宗の言葉に了承の意を示すと小十郎は、すぐさま部屋を出て行った。

騒ぎを聞きつけたのだろう。

その小十郎とすれちがいで喜多が入ってくる。

そして、政宗に抱きとめられたままぐったりとするの姿に、そしてちじこまる女中たちに何が起きたのか悟ったのだろう。

大声で駆けつけてきたほかの女中たちに指示を出す。

の部屋に褥を用意なさい!あと、湯と水!そして着替えも!」

















back/ next
戻る