ドリーム小説











  BASARA20






__本当は知っていたのだが何をされているかも、その原因が自分が引き起こしたものであることも。







         =毒=



その言葉が政宗にずしりと襲い掛かる。



『母上!』



幼かった頃の自分が、



『聞いてください、母上!』



まだ、母を母と呼べたときの自分が、



『会い、たい、です・・・。母上・・・。』



純粋に母を求めた自分が



『汚らわしい。』



裏切られた瞬間を



『そなたなど、生まなければよかったわ。」



思い出す。



『この”ばけもの”が!』





「政宗様!」

小十郎の言葉に政宗ははっと意識を現実にむける。

「政宗、様・・。」

「大丈夫だ。」

心配げに見てきた小十郎に、そう返し政宗は騒ぎの起こっている部屋へと急ぎ足を進めた。



「いいかげんにしな!」



が向かった方に足を向けた政宗。その耳に最近よく聞くようになった彼女の声が聞こえてきた。

部屋の前の曲がり角そこで足を止め話を聞く。



「私だけなら別に何も言うつもりありませんでした!

けど今回のはさすがに見逃すわけにはいきません!

もし手違いで他の人の夕餉にまぎれ込んでいたら?

もしそれを政宗様が食していたら?

ちゃんと私に当たっていたからよかったものの、もし政宗様が本当に食していたら、あなたたちはどうやって責任を取るつもりだったのですか!?

あなたたちはここに何をしに来ているのですか?

人を嫉むため?

いじめるため?

そんなことのために来ているのであれば今すぐ家へ帰りなさい!

私たちは、政宗様を守り助けこの奥州をよりよい地にするためにここにいるのです!

そんな私たちが政宗様の足を引っ張るようなことをしていいとでも思っているのですか?!」



    どくん



その言葉に政宗の胸は震えた。

それらの言葉は女中らに向けられたもので、それでも政宗の胸に深く響いた。

地位も、財産ももたず、立場すらない。

そんな彼女が政宗に向けて来たのは

   絶対の信頼で

政宗の胸に何か言いようの無い感覚が生まれた。



  ざわり



先ほどよりも大きなざわめきに政宗は原因の部屋へと足を踏み入れた。 

そこにあったのは、崩れ落ちていくの姿。

慌ててその体を抱きとめれば、その身体は異常なほど熱く、そして汗の所為か湿っている。

政宗の背中を嫌な汗が流れる。



「・・・Suit・・・。」

そう呟き政宗はから顔を上げる。

そこにいるのはと同じくらいの女中たちで、政宗の視線におびえ身体を震わせていた。

(・・・こいつら・・・。)

さらに目を鋭くした政宗に彼女らはさらに身をちじこませた。

「小十郎、医師を呼べ。」

地の底から響くような声で後ろに控えている小十郎に言う。

了承の意を示し、小十郎が急いでそこから去っていくのを感じた。

それとすれ違いに中に入ってきた喜多はこの様子を見て何があったのかを悟ったのだろう。

すぐさま他の女中たちに指示を出していた。



それらを聞きながら、政宗の眼は彼女らを見つめたままだった。

あまりのその眼光の鋭さに何人かは涙をこぼす。



「は〜いはい。梵。止まれって。」

この場に似合わない能天気な声。

それと同時に遮られた視界に政宗はするどい目をそのまま声の主、成実に向ける。

「梵、ただでさえ怖いのににらんじゃったら、もっと怖いじゃん。」

それにも何も言わない政宗に成実はそれに、と続ける。

ちゃん連れてくのが先じゃね?」

それに政宗ははっとしたように腕の中のを見る。

は呼吸が整わず、先ほどよりも顔色が悪い。

「Suit!!」

再びそういうと政宗はをそろりと、だがすばやく抱き上げる。

「成実すぐに戻る。」

「了解〜。」

成実の返事を背中に受け政宗は丁度医師を連れて戻ってきた小十郎と共に、の部屋へと向かった。





「・・・さて、と。」

政宗を見送った成実が、ゆっくりと振り返る。

政宗の眼光から逃れほっと息をついていた女中らがその動作にびくりと体を震わす。



「ねぇ?誰がしたのかな?今回のこと。」



その顔は笑っているが、眼はあまりにも鋭く彼女らを射抜く。



「君?それとも、君かな?」



口調は穏やかなのにそれは決して彼女らを落ち着かせることも無く。



「ねぇ、だれが、したの?」



再び繰り返された言葉に誰もが凍りつく。中には意識を失うものもいた。



「ねぇー・・・。」



三度繰り返されようとした言葉に女中の中の一人が転がり出てきた。

「私がっ、私がいたしました!」

頭をこすり付けんばかりに下げた少女は、紀伊だった。


















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